95話 そして本戦へ①



県予選を突破した三人は別室に案内され、しばらく待機するように言われた。

案内された部屋は待機室とほとんど同じだったが、少し違ったのは大型モニターが設置されている事くらいか。


未だに自分がトップで通過した事が信じられない響は、なんだかこの場にいるのが不思議だった。


落ち着かない気分で待つこと数分、モニターが映し出されそこには擬似ダンジョンの案内役でお馴染み、ピンクツインテールが特徴の少女、モモが映し出されていた。

モモはペコリと小さな頭を下げると、相変わらずの無表情で口を開いた。


「この映像は全国の本戦出場者に向けて映し出されています。まずは、皆様お疲れ様でした。上級クラス参加者3129名中、本戦出場者は61名となりました。内訳は──」


その後、モニターに映し出された数字と共にモモは淡々と説明を始め、三人は静かにそれを聞いていた。


まず、本戦はAブロック30名、Bブロック31名のランダムトーナメント形式となっているらしい。

優勝するにあたり、シード枠でない限り6回ほど戦う計算となる。


中々に鬼畜なのが、それらを1日でやりきると言った点だ。その都度ポーションは支給されるが、それだとしてもかなりハードな戦いになるだろう。


因みに響はBブロックで、エレナともう一人のアルベルトはAブロックだった。

対戦相手は完全にランダム形式で回戦事に選ばれるので、運が良ければB級探索者と当たる事もあるだろう。

しかし逆に運が悪ければA級の猛者との連戦になるなんて事も十分に有り得る話だ。


本戦は明日の8:30からの予定だ。

ブロック発表はされたが、肝心の対戦相手などは当日直前に発表との事。

なんでも、有名な探索者ならある程度対策を立てられてしまうというのが理由らしい。


またランダムトーナメント形式は一回戦を勝ち抜いたとしても次の相手が分からないというのは、少々ややこしい気もするが平等性を考えればこれ以上はない。

ブロックの決勝からは意味をなさないが、そのレベルまで勝ち残っていたとしても対策を立てる時間などないに等しい。


「最後に全国トップの成績で予選を通過しました、佐藤響様はシード枠での出場となります。説明は以上となります。ご不明点などございましたら、各出場者様に後ほど担当員がつきますので、そちらにて問い合わせください。改めて、本戦出場おめでとうございます」


最後にもう一度ペコリと頭を下げると、モニターはブツリと切れた。


「ぜ……全国トップううううう!? なんかとんでもない事になってる!?」


サラッととんでも情報を暴露したモモはもう居ない。うるさいくらいの絶叫が部屋に虚しく響いた。

県予選トップと言うだけでも十分過ぎるくらいなのに、まさか全国トップだとは夢にも思わなかった。

驚きを通り越して最早これが現実か疑い始めた響は、試しに頬をつねってみた。


「……うん、痛いな普通に」


普通に痛かったらしい。

そんな阿呆な事をしている響を見てエレナは微笑みながら、


「ふふ……本当に、大したものだな貴公は。とてもあの時の青年と同一人物だとは思えないな」


あの時というのは目目連を獲得して間もない頃の、我妻の一件があった時の事だろう。

あれがエレナとの最初の出会いであり、確かに彼女の言うとおり今と比べると色んな意味で別人だ。


「ま、まぐれですよ……本当、たまたまで」

「ふふ、そう思っているのは貴公だけだぞ。しかしランダムトーナメントか……なるほどな、よく考えられている。佐藤響、ブロックは違えど……勿論私達は戦うであろう?」


エレナは暗に決勝で、と言っているのだ。

実力に絶対の自信があるのか、その表情は凛としていてそこには不安や畏れなど微塵もない。


「……そう、ですね。でも、俺が優勝しますから!」


響はそんな彼女に当てられて、普段言わないような強気な台詞を吐いてみせた。

エレナは少し驚いたように目を見開き、そして微笑んだ。


「ふふ、いつになく強気だな。俄然楽しみだ。それから……アルベルト、と言ったな。君とも本気で・・・刃を交えるのを楽しみにしているよ」

「……そうだな。俺も楽しみだ」


アルベルトはフードを深く被ったままそういった。

思ったよりも少し高い声に驚いた。アルベルトの年代は響と近いみたいだ。


エレナは二人にそう言い残して部屋を出ていってしまった。アルベルトと二人きりになり、なんとなく気まずい雰囲気が漂う。


──ええ、どうしよう。俺も声をかけるべきか? でもなんか、ちょっと恐いんだよなこの人。


そんな事を考えていると部屋を出ようとしたアルベルトが響の前で立ち止まり、


「悪いが、あんたがアイツと戦う事にはならない」

「──え? それって……あ! ちょっと!」


アルベルトは言うだけ言って満足したのか、響の制止に振り向きもせずに部屋を出ていった。


「なんなんだよあの人……! 感じ悪いなあ」


ボヤいてみるが、どうも先程の言葉が気にかかる。

なんとなく、本当に感覚的な話ではあるが自信があるとか、宣戦布告とか、エレナに対する勝利宣言とかそういった類ではないように感じた。


そう、例えるならそれが決して覆ることのない確定事項だとでも言うような、そんな感じだ。

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