94話 県予選結果発表!

県予選終了のアナウンスが流れると、それまでザワついていた待機室は一瞬で静寂に包まれた。

皆真剣な表情で、あるいは神に祈るような表情で固唾を飲み込んだ。


それはトップでクリアしたエレナも、三位でクリアした響も同様だった。

そんな探索者達の事などお構いなしにアナウンスは「集計結果の発表です」と無機質な声で続けた。


──やば、なんか今更緊張してきた……!


自然と握られた拳にはびっしょりの手汗。

数秒後には本戦出場者が発表されるのだ。不安と期待と入り交じるのも無理はない。


「では本戦出場者三名の発表をさせていただきます。視聴者ポイント、クリアタイム、モンスター討伐ポイントの合計得点を三位から順に発表します」


響の場合、本戦出場ラインを確定で突破しているのはクリアタイム。討伐ポイントも恐らくそれなりの順位ではあるはずだ。

残るは視聴者ポイント次第だが、これもボス戦後に爆発的に伸びている。


「……頼む」


無意識にボソリと呟いていた。

目を瞑り聴覚に全意識を集中させた。


「視聴者ポイント35620、クリアタイムは2時間56分、討伐ポイント21000──三位通過はアルベルトさんです。本戦出場おめでとうございます」


──え?


一瞬、アナウンスが何を言っているのか分からなかった。

響は本戦出場出来るならギリギリの三位通過だと予想していた。


それなのに、三位では自分の名前が呼ばれることはなくアルベルトと言う探索者がその座についていた。


周りを見回したがそれが誰なのかはわからない。

ただ、黒ローブの探索者がそうなのではないかと考えている。

エレナの次にクリアしていた彼なら、それも不思議ではない。


ふと、エレナと目が合うと彼女も驚いているようだがニヤリと笑って余裕たっぷりの表情をしていた。


──落ち、た……? 2位……ましてや1位通過なんてないだろうし……まじか。結構手応えあったと思ったんだけどなあ……


全身の力が抜け、その場でへたり込む響。

多くの探索者もため息をついて落ち込んでいる。


「続いて、視聴者ポイント39500、クリアタイム2時間45分、討伐ポイント23200で二位通過エレナ・スカーレットさんです。おめでとうございます」

「……は?」


続いて二位はまさかのエレナ。

ことごとく予想が外れ、思わず変な声が出てしまった。


中間視聴者ポイントも凄まじく、トップでクリアしたエレナならば当然一位通過だと思っていた。

それは本人ですら、そう思っていた。


──でも本戦出場には変わりないんだ。お祝いの言葉くらい言わないと失礼だよな。


響は立ち上がりエレナの元へと駆け寄ると、


「エレナさん、おめでとうございます!」


嬉しい気持ちもある。それは嘘偽りなどない。

が、悔しくないと言えばそれは嘘だ。やはり負けたくなかったし、本戦にも出場したかった。


「ああ、ありがとう佐藤響。しかしまあ、やってくれたな。自惚れかもしれないが、私がトップだと思っていたよ」


エレナは響の肩に手を置いて微笑みながらそういった。

その言い様はまるで響が一位だと言っているようで、響は余計に複雑な気持ちになった。


「俺もエレナさんが一位だと思ってました……でもそうなると誰が一位なんでしょうね」

「!? 全く貴公は……」


ふふふ、と呆れ顔でエレナは笑ってたが響にはそれがどんな意味なのかさっぱり分からなかった。


「続きまして、県予選一位の発表です」


そんな中、アナウンスは第一位の発表に移ろうとしていた。

半ば諦めていた響だが、心の隅ではほんの少しだけ期待していた。


──でも、そんな甘くないよな。神奈川のトップ探索者が集まってるんだし。ああくそ、ミアになんて言えばいいんだろ……


「第一位、視聴者ポイント36980、クリアタイム2時間59分、そして討伐ポイント35000──佐藤響さんです。トップ通過おめでとうございます!」


クリアタイムは三位、視聴者ポイントは二位、そして討伐ポイントがぶっちぎりの一位。

雑魚モンスターの全てを討伐、ジャック・オー・ランタンの強化に加え、ランダムボックスEXの不使用などのおかげで討伐ポイントのボーナスがかなり付いたみたいだ。


「なんだあ一位だったのかあ……ん? 一位? 俺が……?」

「と、言うことだ佐藤響。悔しいが、賞賛に値するよ。おめでとう」

「えええええええええ!?」


まるでこれが分かっていたような顔をしたエレナから改めて一位の事実を伝えられ、否が応でもこれが現実だと認識し絶叫。

周囲の探索者も吹っ切れたのか、本戦出場者の三名に対し盛大な拍手を送った。


こうして響は、県予選をトップの成績で通過し本戦への出場権を獲得した。

実はこの成績は全国でもトップであり、今以上に絶叫するのはもう少しあとの話。


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