97話 開会式①


本戦当日、響とミアは会場である東京ドームへと足を運んでいた。

最大15組の探索者が戦うにしてはかなり狭く思うが、そこら辺は何か対策をしているのだろか。


会場には入り切らない程の人だかりが出来ていて、当然のように参加者である響とそうでないミアは別々になる。


しかし、この人の波の中にミアを置いていくのはどうかと端の方で二人して縮こまっていると、


「響君、トップ通過おめでとうっす! 調子はどうっすか?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、


「クラッドさん! ありがとうございます! 調子はぼちぼちって所ですかね」

「あ……副、会長……さん」


ミアも副会長であるクラッドの事を知っているらしく、エレナの時とは違い後ろに隠れるような事にはならなかった。


「ミアちゃん、お久しぶりっすね! 響くんの応援っすか?」

「ん……響、ゆうしょー……!」

「あはは……気が早いよミア。初戦も終わってないのに。でも、頑張るから見ててな」


と言っても響はシード枠なので、二回戦からの参加になるが。


「あ、そうだミアちゃん。良かったら俺と一緒に応援しないっすか? 実は特等席取ってあるんすよね」


そう言ってクラッドはニヤリと笑った。


「……!……副会長さん……ぶい……!」


ミアもそれに習ってニヤリと笑いブイサイン。

きっと特等席は副会長権限を使って手にしたのだろう。職権の範疇を超えている気がするが、この際あまり細かい事は言うまい。


「ええ、わざわざありがとうございます! 正直心配だったので助かります」

「いいんすよ! その代わりちゃんと優勝するんすよ?」

「はい、必ず!」


◇◇◇◇◇◇


二人と別れ、選手控え室に入ると中は思った以上にピリついた雰囲気だった。


立派な杖を持った者、獣人のような異界の来訪者、全身をプレートアーマーで包んだ騎士のような者など、どの探索者も一斉に響の方に視線を寄越した。


実は響が入室するまではそんな事もなかったのだが、この男は予選トップ通過者である。


本戦出場者ならそんな響に何も思わない訳がない。



「やあ佐藤響、遂にこの時が来たな。皆貴公に注目しているぞ」


そんな中、席をたち声を掛けたのはエレナだ。

一人でも見知った顔がいて響は安堵のため息をついた。


「エレナさん! ここまで来たら関係ないですよ」

「ふふ、それもそうだな。ここにいる全員がライバルだ。決勝が楽しみだな」

「そうですね。約束を果たしましょう」


勿論それは、決勝で会おうという昨日の約束だ。

エレナはそれに微笑みで返すと再び席に着いた。


「ヘイ、ユーが噂の主人公って奴か?」


すると会話の終わったタイミングを見計らって声を掛けてきたのは、サングラスをかけたドレッドヘアーのいかにも悪そうな男だった。どうみても国籍は日本ではなさそうだ。



身長も2メートル近くあり、黒い肌と膨れ上がった筋肉からは常日頃鍛えているのがよくわかる。

パツパツのタンクトップからは、タトゥーがはみ出していておまけに首元にはゴツイ喜平のネックレスを付けている。


「はは……あんまり好きじゃないんですけど、そう呼ばれてますね」


乾いた笑みを浮かべそう返したものの、内心はあまり関わりたくない人種だなと思っていた。


──なんかヤバそうな人だな……苦手なんだよなこういう見た目の人。


ドスドスと音を立て響の目の前まで来ると、ニカッと白い歯を見せた。


「俺はアルフレッドだ! 予選では負けちまったが本戦では負けねぇからな! 俺と当たるまで負けるじゃねぇぞ!」


ガハハハと豪快に笑って右手を差し出した。

一瞬、手を出されるのかと思った響はビクッと震え、偏見とのあまりの違いにキョトンと豆鉄砲をくらったような顔をしていた。


そして少しの間を置いてふと我に返り、同じように右手を出し握手した。


「俺だって負けませんよ! お互い良い試合をしましょう、アルフレッドさん!」

「楽しみにしてるぜユー!」


(なんか凄くいい人だな。なんか勝手に偏見もった自分が恥ずかしいや)


見た目は確かにギャング等を連想されるが、アルフレッドは人当たりがよく、気持ちの良い人物だった。

偏見を持ってしまった自分を恥じると同時に、本戦開始前に心がほっこりと温まった気がした。


その時、コンコンとドアがノックされ恐らくは案内役であるスーツの男が入ってきた。


「失礼します。案内役の園田と申します。お待たせしました。これより、開会式を始めますので、皆様ドーム中央へご案内致します」


園田は深く頭を下げ、本戦参加者を会場へと案内した。

順番はトップである響が先頭で、それ以外に特には指定がなかったので、皆ゾロゾロと適当についてきた。


少し暗い通路を少し進むと、会場への入口が見えてきた。

ドクンと心臓が高鳴る。


──いよいよ始まるんだ。あそこをくぐったら、もう戻れない。絶対勝ち抜いてみせる!


響は自然と口角を上げていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る