55話 小鬼の王①
甲高い金属音や地響きのような低い音。そしてモンスターと男の声が静寂の街にこだました。
「なんだようるせえな。外で何やってんだ?」
ディザスターゲート付近のアパートに住む若い男は、鳴り止まない騒音に腹を立てながら窓を開けた。
「おわっ! え、え? なんか授業で見た事ある……モンスターだろあれ。な、なんでダンジョンの外にいるんだよ!」
野球などしていたら注意しようと思っていた矢先、行われていたのは殺し合いで度肝を抜かれた。
「探索者もいる……てか、何あの人、強すぎねぇ?」
今まさにゴブリンを串刺しにして、コボルトの顔面を焼き尽くしたところだった。
ワラワラとゲートから出てくるモンスター達を瞬く間に倒していく。
剣を振るい、雷撃を放つ探索者。
たった1人でそのことごとくを倒すそれは、孤軍奮闘と言うよりも寧ろ──
「無双してんじゃん……なんだよカッコよすぎるだろ!? これは──絶対バズる!!!!」
若い男は慌ててスマホを取り出し配信アプリを操作。
すぐに撮影に移った。
その間、彼は「すげえ」、「危ない」、「頑張れ」と独り言をブツブツと唱えていた。
«近所の公園で探索者が無双してる件»
このようなタイトルで配信を始めると、すぐに同接数が100を超えた。
”え、それディザスターゲートじゃね?”
”配信なんかしてないで早く逃げろwww”
”いやそれよりあの探索者なにものだ? 上級探索者? ”
”知らんけどくっそ強くて草”
”ディザスターゲートから出てきたモンスターって、普通のより数倍強いんじゃないのwwwなんで無双してんのwww”
などと多数のコメントが一気に流れお祭り状態だ。
そんな事を知る由もない響は、溢れるモンスターに向けただひたすらに刃を振るっている。
「はあ……はあ……キリねぇな……どんだけ出てくんだよ! てか、組合はなにしてんだ!? こんなのいつまでも続けてられねぇぞ」
倒したモンスターは軽く30を超え、公園には似つかない屍の山を築いていく。
響が戦闘を始めてから約20分。確かに、そろそろ到着してもいい頃だろう。
全身からは汗が吹き出し呼吸も荒い。相当な疲労が溜まっているはずだ。
ホブゴブリンの首筋を切りつけ、ゴブリンをサンダーボルトで殲滅。
周囲のモンスターを一掃した頃、視界の端でゲートが大きく歪んだように見えた。
「今、ゲートが……」
歪みはだんだん大きくなり、やがてゲートはうねり中からは成人男性程のゴブリンが出てきた。
そしてその瞬間、ゲートは中心に渦を巻いたかと思うと、やがて消えてしまった。
「まさか、ボスか……?」
通常のゴブリンでも、ホブゴブリンでもない。
大きさは両者の中間。一番人に近いサイズだ。
ひょろ長い手足の、膨張した下腹部。
首からはマントのようなボロボロの赤い布をなびかせており、右手に持つはハルバート。
薄汚れた冠を被り、響を見るなり醜悪な笑みを浮かべた。
──ゴブリンキング!!
響はこのモンスターを知っていた。
過去に1度だけ遭遇した事がある。だがその時の響には戦闘能力がなく、攻略隊の戦闘をただ眺めていただけだ。
その時の事を今だ鮮明に覚えていた。
その時も今と同じ様に嗤い、石ころでも見るかのような目でこちらを見つめていたからだ。
【ゴブリンキングディザスターLv66】
・弱点 風魔法 胸部
・特性 ディザスターゲートにより強化された個体。通常のゴブリンと比べ凶暴性が増している。ゴブリン族の長であり、同族を喰らう事で力が増す。また、同族の死により奮闘状態に入りステータスが強化されるので注意。
・スキル 凶暴化Lv6 孤軍奮闘Lv6 共喰いLv5 斧術Lv5 統率Lv5
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