56話 小鬼の王②


ただ立っているだけでも圧倒的な存在感を放つゴブリンキング。

先程までのモンスター達と同じ様にはいかないだろう。

それに響は連戦に次ぐ連戦で消耗してしまっている。


ふと、ゴブリンキングは響とは別の方向へとゆっくり歩き出した。


「……なんだ? どこに行くつもり──させるかッ!」


ゴブリンキングが向かった先を見て、何かを察した響は即座に飛び出した。

ゴブリンキングは共食いをする為に、亡骸のある方へ向かったのだ。

距離を詰め、白光を叩きつけるように振り下ろす。


ゴブリンキングはハルバートを振り上げ迎え撃つ。


キィンと鼓膜を揺らす金属音が響きわたる。


「げぎゃぎゃぎゃ!」


響の一撃を防ぎ、まるで「この程度か」と言わんばかりに口角を上げるゴブリンキング。


──それなら……!!


響は柄を握る手に力を入れ、高速の連撃を放つ。

しかし、ゴブリンキングもそれに対応し、ハルバートで上手く凌いでいる。


激しく火花を散らし、交錯するたびに突風が吹く。

二人の斬撃の応酬は常人の目には追うことは出来ないほどだ。


「らあああぁぁぁ──ッ!!」


響の鋭い突きがゴブリンキングの頬を掠めた。

次刃は肩を掠め、徐々に響が押し出した。


「ぎゃぎゃッ」


ゴブリンキングもさすがにこの打ち合いは分が悪いと思ったのか、バックステップで距離を取りその場で地団駄を踏む。


──強い、と言うよりは上手いな。


響は今までの敵とは明らかに違うと肌で感じとっていた。


武器を持つモンスターは珍しくもない。

だが、その武器の練度がここまで高いモンスターはそうはいない。


高速の打ち合いの中、何度か隙があった。

だがそれは恐らくゴブリンキングが意図的に作ったものだろう。


本能的に響はそれを避けたが、そのまま打ち込めば手痛いカウンターをくらっていた。


あのゴブリンキングはハルバートの扱いに長けている。斧術スキルのおかげかもしれないが、何にせよ強敵だ。


──あまり使いたくはないけど、早めに片した方が得策だな。


「ふぅ……黎明之刻デサフィアンテ!!」


黄金の輝きが身を包むと同時に、白光も呼応する様に輝き出した。響は静かに切っ先を相手の胸部に定めた。

極限まで意識を研ぎ澄ませゴブリンキングを睨む。


何かを察したゴブリンキングはハルバートを担ぎ上げ、腕に力を溜める。

血管がはち切れそうになるまでチャージし、響目掛けて全力で腕を振り抜き投擲をした。


風を切り凄まじい速度でハルバートが迫る。


「行くぞッ!!」


彼我の距離は10メートル。

しかし響は動くことなく、その場で・・・・白光を振り下ろす。


すると輝きを帯びた刃は巨大な斬撃をうみ、ゴブリンキング目掛けて一直線に放たれた。


「げぎゃっ!?」


地を裂きながら放たれた光の斬撃は、投擲されたハルバートを簡単に砕き、次の瞬間にはゴブリンキングを縦に両断していた。

左右に倒れた身体からは血液が吹き出し、臓物がこぼれた。


断末魔をあげることさえ許されずに、小鬼の王は絶命した。


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】

【レベルアップしました】


レベルアップ通知が流れると共に、全身から力が抜けるような感覚に襲われ、片膝を着く。


「はぁ……はぁ……なんとか、片付いたか……」


荒くなった呼吸を整え、高鳴る鼓動を鎮める。

身体が鉛のように重く、全ての動作に違和感を覚えた。


「この反動は……中々しんどいな……」


ハイレベルのモンスターとの連戦でボロボロになり、その上ステータス半減のデバフを受けた響は思わず大の字に寝転んだ。


すると、遠くから微かに足音が聞こえてきた。

チラと横目で見ると、派遣されてきた組合員が数人走ってくるのが見え、


「……おせえっつうの」


ゴブリンキングを倒してすぐに駆け付けるとは、なんとも間の悪いもの達だ。

ため息と愚痴をこぼし、太陽が隠れ暗くなった空を眺めると小さな星達が輝いていた。


この日、響はディザスターゲートを1人で完封するという偉業を成した。


自慢する気も誰かに話す気もなかったが、ある男の配信がきっかけでネットでは大騒ぎになっている。

勿論、そこで大の字で寝転がっている佐藤響はまだ、この事を知らない。

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