54話 ディザスターゲート③
「す、すげえな兄ちゃん。あの化け物を倒しちまうなんてよ……」
コボルトが死んだのを確認したドライバーがタクシーから降りてそう言った。
「そんなことより、早く避難してください。ゲートが近くにあるとしたら、本当に危ないですから」
「あ、ああ……兄ちゃん、さっきは悪かった。俺の息子もあんたみたいに立派に戦ってたんだってわかったよ。組合の連中は30分以内には着くそうだ。兄ちゃん、死ぬんじゃねぇぞ。絶対だぞ!!」
それだけ言い残すとドライバーは車に乗ってエンジンをかけた。
少しだけ報われた気がした。褒められたからじゃない。
目の前の人を救えたからだ。
だが同時に不安がよぎる。
「30分……俺独りで耐え切れるのか……?」
決して短くない時間だ。こと戦闘が続くとなれば尚更だ。
あのレベルのモンスターが絶え間なく現れるのだとしたら、響独りで耐え切るのは容易ではない。
「とにかく、ゲートを探さないと……」
通報はドライバーに頼んだ。後は自分のするべき事をするのみ。
響はコボルトの出てきた道を進み、ゲートの捜索に専念した。
決して見落しのないよう、入念に辺りを確認しながら進む事5分。
「イヤアアアアアッ!!」
すぐ近くで女性の甲高い悲鳴が響いた。
──あっちか!
嫌な汗をかきながら、声のする方向へと疾走。
2つ目の曲がり角を曲がった所で、公園に赤く変貌したゲートがあるのを発見。
反対側の道路では、女子高生がコボルトを前に腰を抜かしている。
「いた! 頼む、間に合ってくれッ」
響は疾風の如く駆け出し、抜刀。
背後から無防備なコボルトの頭部に切っ先を向け、走る勢いを利用して突き刺す。
「ガ……」
コボルトは一瞬呻いたかと思うとその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……ま、にあった……! 君、大丈夫!?」
恐怖でガタガタと震える女子高生は、目の前で何が起こっているのか理解出来ていない。
キャパオーバーし、情報の処理ができていなかった。
ただ、必死に首を縦にふるのが精一杯みたいだ。
──まずは、安心させないと動いてくれそうにないな。
響はしゃがみこみ、女子高生と目線を合わせ優しく肩に手を置いた。
「怖いとは思うけど大丈夫、俺が何とかするよ。でもここは危険だ。1人で逃げられるね?」
一般人を守りながらあのレベルのモンスターを相手にするのは至難の業だ。
集団がゲートを潜る前に、彼女を避難させる必要があった。
「は、はい……!」
震えた声でそういって、よろめきながら立ち上がる。
「あの……ありがとうございました……!」
やっている場合ではないが、彼女は律儀に頭を下げると走り去った。
「よし、とりあえずは戦いに集中できる……って休む暇もないな」
「げぎゃぎゃっ!」
振り返るとディザスターゲートからは、続々とモンスターが現れた。
──無駄な攻撃はいらない。弱点をついて最速で倒す!
【ゴブリンディザスターLv56】
・弱点 魔法全般
・特性 ディザスターゲートにより強化された個体。通常のゴブリンと比べ凶暴性がましている。武器に毒が塗られているので武器で攻撃を受けると毒状態になるので注意。
・スキル 凶暴化Lv4 繁殖Lv4
【ホブゴブリンディザスターLv59】
・弱点 魔法全般 斬撃
・特性 ディザスターゲートにより強化された個体。通常のホブゴブリンと比べ凶暴性がましている。打撃耐性があり、効果は薄い。ゴブリンを統率し簡易的な指揮を執る。
・スキル 凶暴化Lv5 統率Lv3 怪力Lv4 重撃Lv4
新たに出てきたのはゴブリンの集団と3体のホブゴブリン。
緑色の皮膚の巨人。丸太のような棍棒を持ち、ゴブリンとは比較にならないほどの怪力を誇る。
戦闘能力はコボルトよりも高く、ゴブリンの集団との相性がいい。
「グオオオオオッ!!」
「げぎゃっ」
1体のホブゴブリンが叫ぶとそれに呼応するように、ゴブリン達が響を囲むように動き出した。
「──ゴブリン風情が調子に乗るなよ」
響は指揮系統であるホブゴブリンに狙いを定め白光を抜いた。
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