53話 ディザスターゲート②
車の進路を塞ぐのは、いるはずのないコボルト。
ダンジョンの外にモンスターが居るという事は、ディザスターゲートが発生した事を意味する。
そしてコボルト以外にもモンスターが出てきている可能性は極めて高い。
放っておけば何百何千、あるいは何万という人が死ぬ。
「なんだあの化け物は!? お、おいなんでこっちに近づいてくるッ! 来るじゃない! あっちいけ!!」
タクシーに気付いたコボルトが、凶悪な視線を向け歩いてくる。
ドライバーはパニックを起こしているのか、叫ぶだけで逃げようとすらしない。
「落ち着いて!! ドライバーさん、すぐに組合に連絡を……アイツは──俺が倒します」
ドアを開け、外に出ようとした瞬間はドライバーは必死の形相で響の肩を掴んだ。
「ば、ばかやめろ! あんなのに勝てっこない! 殺されるぞ!」
「大丈夫ですよ。俺は探索者ですから」
そう言って車を飛び出した。
いざコボルトと対峙してみると違和感を覚えた。
今までにダンジョンで何度か遭遇した事はあったが、ここまでの存在感はなかった。
──なんだ、この妙な感じ。ただのコボルトじゃない……?
【コボルトディザスターLv59】
・弱点 頭部 氷属性 水属性
・特性 ディザスターゲートにより強化された個体。通常のコボルトと比べ凶暴性が増している。遠吠えを使うと付近にいる仲間が集まってくるので注意。
・スキル 重撃Lv4 遠吠えLv5 凶暴化Lv5
「これがコボルトかよ……そこらのボスより強くねぇか」
表示された情報は信じられないものだった。
ディザスターゲートにより凶暴化し、更にレベルが異常なまでに上がっている。
コボルトという事は高確率でDランクダンジョン。
この1匹だけでも下級探索者では太刀打ちができない程の力を持っているが、このコボルトは雑魚モンスターの内の1匹にすぎない。
このレベルのモンスターが大量にゲートをくぐり、ボスまで登場すればその被害は甚大なものとなるだろう。
所詮コボルトと侮るなかれ。
レベルだけで言えばあのフラクタスよりも上だ。
「グルルルル……!」
喉を鳴らし威嚇する。コボルトも響が手強いのを感じ取っているのだろうか。
──エレナさんがこの前言ってた事も気になるな。故意にディザスターゲートを開けるとは思えないけど……いや、今はそれよりコイツをどうにかしないと。
「増援が来るまで俺が食い止めるしかないか……やってやるよ。かかってこいッ!!」
白光を構え臨戦態勢に入る。
少しの間お互いに睨み合い、先に動いたのはコボルトだ。
コボルトとは思えない俊敏さで距離を詰め、右腕を振り下ろす。
──早い! けど、フラクタスに比べれば……!
鋭い爪による斬撃を紙一重で躱し、白光を切り上げる。
コボルトは即座に上半身を引き、刃は顎先を掠める。
しかし、響の左手は白光の柄を離れ既にコボルトの腹部にあり、
「サンダーボルト!」
避ける間もなく放たれた雷撃は、コボルトの腹部を広範囲にわたり焼き焦がした。しかし、
「グオオオオオッ」
コボルトは怯まず瞬時に攻撃に転じ、唾液の垂れる口を大きく開けそのまま噛み付こうと迫る。
「なッ!?」
バックステップで直撃は避けたが肩を掠めた。
服ごと肉が裂かれ、鋭い痛みが走る。
「怯みもしないのかッ!」
──凶暴化のスキルのせいか? だとしたら思ったよりも厄介だぞ。
スキルのせいなのか、死をも恐れないコボルトは非常に厄介な存在だ。
攻撃を受けても構わず反撃するなど、正気の沙汰ではない。
即死させない限り、すぐに反撃が飛んでくるということだ。
ボスならともかく、雑魚モンスター程度に時間も体力も使うのはあまり得策ではない。
「弱点の頭に一撃。それで終わりだ!」
幸い、敵の攻撃は単純で種が明かされれば対処はできる。
怯まないと言うだけで、死なない訳ではない。
響は痛む肩を無視して白光を構え、駆け出した。
「おらァッ!」
頭上から刃を振り下ろすが、コボルトは爪をクロスさせ何とかそれを弾く。
響はその勢いのまま跳躍し旋回。
後頭部を蹴りつけ顔面を地面に叩き付ける。
「グ、オァ……!」
「まだだ!」
白光の切っ先を頭部に刺し込む。
硬い頭蓋を砕き、柔い脳を貫く感触。
鮮血が舞い、徐々に辺りを赤く染めていく。
コボルトはその場で動かなくなり絶命した。
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