99話 1試合目!
一回戦に参加する四人以外は皆控え室に通された。
AブロックBブロック共に観戦出来るようにモニターが二つ並んでいる。
適当な席に座り、ABブロックどちらかメインに観戦するかを考える。
──エレナさんの……きっと勝つよなあ。それよりもアルフレッドさんの方を見た方がいいか? 同じブロックだし。
A級の中でも上位の探索者であるエレナに対し、B級探索者が勝つのは厳しい。
と言うよりもB級がA級に勝つこと自体稀だ。相当な努力と作戦を練る必要がある。
などと生意気にも思っている響はF級だ。
エレナはこのような油断はしないだろうが、実戦に近い形式を取った本戦では何があるか分からない。
アルフレッドの方はA級同士の試合となっており、余程の差がない限りすぐには終わらないだろう。
ある程度手の内が知れるチャンスだ。
どちらが勝っても、響が勝ち続ければその内は当たる事になるのだから。
「あ、始まった」
『よぉテメェら!待ちに待った武闘大会本戦だ! 実況は俺様ジョンが務めるぜぇ! 皆よろしくなァァァ!』
意気揚々と声を上げるのは本日の実況者のジョン。
観客席とは別の司会席にて、ボサボサの頭と丸メガネ。とてもこの声の主には見えない見た目だ。
『選手の紹介はいらねぇよな? 選手のギラついた目つきを見てみろ! やる気まんまんだ! さててめぇら準備はいいかァ?』
Aブロック、エレナ対舞原。Bブロック、アルフレッド対高橋。
四人とも既に位置に着いていて、ジョンの言う通りギラギラした目で相手を睨んでいる。
ジョンの問いかけに観客は大歓声で返すと、
『よォし! 選手の方も準備が出来てるみたいだ! ゴングが鳴ったら試合開始だ! いくぜ? 3,2,1……試合開始だァァァァ!』
カーン、とボクシングでお馴染みのゴングがスピーカーを通して会場全体に響いた。
「さて、悪いが早々に勝たせてもらうぞ」
水色の長い髪をポニーテールに纏め、軽装に身を包んだエレナがキッと睨みつけてそう言った。
まるで自分の勝ちは決まっているかのようだった。
対する舞原はまだ若く10代後半のように見える。
目にかかるくらいの黒髪で弓を構え、エレナのセリフを鼻で笑った。
「格上だからってあんまり舐めすぎると──ぇ」
その瞬間、エレナは舞原の懐に潜り込み超高速の拳を三度くらわせる。
パキンという音が鳴り、舞原の腕輪が砕け散った。
恐らく舞原は……いや、観客の大多数にも何が起こったか分からないだろう。
ドサリと力無く崩れる舞原は白目を向いており、完全に気を失っている。
まだゴングは鳴り響いており、試合開始から3秒での早すぎる決着となった。
「む、少し力を入れ過ぎたか? すまんな、あまり加減というのに慣れてないんだ」
剣を使うことなく文字通り瞬殺したが、会場は理解が追いつかず静寂に包まれた。
『けっ……決着だァァァ!! Aブロック開始わずか3秒!! あまりに早すぎる。あまりに残酷すぎる。圧倒的な強さを持って舞原選手をくだした! Aブロック勝者、エレナ・スカーレットォォォォ!!!』
さすがは実況者と言うべきか。
ほんのわずかな間はあったものの、瞬時に状況を理解し会場にエレナの勝利を知らせると、会場はワンテンポ遅れて大喝采を送った。
『粉砕! 玉砕! 大喝采! さすがはエレナ・スカーレット! だがこいつらも忘れるな! Bブロックの試合はまだ始まったばかりだ』
「ヘイ、さすがだぜ! 俺も負けてらんねぇな!」
「よそ見してんじゃないわよこの筋肉ダルマ!」
口笛を吹き、隣のアルフレッドがぱちぱちと拍手する。
それに腹を立てた金髪の少女高橋はつり上がった目でアルフレッドを睨みつけ、その直後に炎槍を放つ。
「おわっとアチチッ、火傷しちまうぜ! 全く野蛮な嬢ちゃんだなユーは」
「──なっ!?」
炎槍を拳一つで打ち消し、余裕そうな表情で大袈裟に言った。恐らく熱いとも思ってないのだろう。
高橋に手を抜いた様子はない。同じA級同士でも、両者の間にかなりの差がある事が証明された。
「次は俺のターンだユー! 俺も少しいい所見せちゃうぜ」
アルフレッドはボクシングのような構えを取り、タンタンとステップを始める。
「それがなによ! これならっ」
高橋は背後に無数の炎弾を浮かべ、次の瞬間にはその全てがアルフレッドに襲いかかる。
『おおっとアルフレッド選手これはピンチだ! 高橋選手の弾幕は1ミリの隙もないぞ!?』
「ん〜……楽勝だぜ☆」
炎の弾幕に合わせ地を蹴りつけたアルフレッドだが、驚く事に無数の炎弾を回避し、拳で打ち消している。
右へ左へとジグザグステップでどんとん距離を詰め、彼我の距離は気付けば2メートル程しかなかった。
「なんなのよコイツ!」
舌打ちをし即座に巨大な炎の壁を展開するが、その時にはアルフレッドはもうすぐ後ろにいた。
「ユー」
「きゃっ……!!」
トントンと肩を叩き、振り向きざまに拳を寸止め。
高橋は撃たれると思ったのかぎゅっと目を瞑っている。
「まだやるかい?」
ニカッと笑うアルフレッドだが、対照的に高橋は悔しそうな顔で、
「……降参よ。悔しいけど、あんたのほうが全然上ね。次も負けんじゃないわよ」
敗北宣言をし、アルフレッドの厚い胸板に軽く拳をうった。
『Bブロック決着ゥゥゥ! 目にも止まらぬスピードで最後は紳士的振る舞いを見せたアルフレッドが勝利したァァァ! 潔く負けを認めた高橋選手も素晴らしい! 両者に盛大な拍手を!』
たった今Bブロックの試合が終了し、その様子をモニター越しに見ていた響の口角は自然と上がっていた。
エレナの瞬殺劇とアルフレッドの無血勝利というハイレベルな試合は響の胸を打ったのだ。
(2人とも半端ねぇ! 早く、俺も早く戦いたい……!)
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