100話 ユー! 楽しもうぜ①
特等席とは、ドームの左右にあるロイヤルウィングと言われているいわゆるVIP席だ。
まるで高級ホテルの一室のような所で、通常の観客席とは雲泥の差である。
ふかふかなソファでくろぎながら、フィールドを見渡す事もできるし、専用のモニターで細かい動きを追うこともできる。
空調の効いた程よい室温で、豪華な食事とアルコールを含むドリンクも全てサービスでついており、快適というのにこの上ない環境だ。
そんなVIP席で観戦しているクラッドとミア、そしてウルや翼もそこに居た。
「いやあ、エレナさんはさすがっすねぇ」
「あのアルフレッドとか言うのも中々使えそうだな」
たった今1試合目が終了し、クラッドと翼は有望な人員を探すために吟味していた。
ウルとミアは注文したケーキをもしゃもしゃと頬張り、観戦はしているがあまり関心はないようにも見える。
「これ……ミアの……! だめ、あげ……ない」
「む、何を言うチンチクリン! これはワシのチョコケーキなのじゃ! ワシがとっておいたのじゃ! ええい、そのフォークをどけるのじゃ!」
カチカチとスプーンとフォークで残り一つになったチョコケーキの奪い合いに興じる二人だが、
「あ……ミアの、ケーキ……」
「な、な……何をするのじゃリリアぁぁぁ! お主とは仲間だと思っていたのに……この裏切り者っ」
すっと隙を見てチョコケーキにフォークを指し、パクリと食べたのは、いつの間にか部屋に入ってきたリリアだった。
温和そうなタレ目の金髪美人。リリアはミアと響とも一度だけ会ったことがある。
フラクタスの一件の後に、入院している二人の元に派遣された組合員が彼女だった。
「ふふ、喧嘩両成敗ですよ。あ、これすっごく美味しいですね」
パクッと一口食べると、口の中に程よい甘さが広がりご満悦の様子。
「リリアちゃん遅かったっすね。もう始まってるっすよ!」
「実はまだ仕事終わってないんですよ。実はちょっと気になるデータがあって……それを知らせに来たんです」
「それはアイツらに関連することか?」
と、翼が目を光らせた。
リリアは口に着いたチョコを拭き取ると、すっとソファに腰をかけ、
「実は──」
────
───
──
『これで1回戦全ての試合が終了だ! 残る選手はシード枠を含め、16名! まだまだ力を隠した奴らばっかりだが、ここから先はどんどん相手を強くなっていく! さぁ気になる2回戦、1試合目の発表だ!』
一回戦が全て終了し、知っての通りエレナとアルフレッド、そしてアルベルトも難なく突破した。
ジョンの合図でモニターには2回戦、1試合目の組み合わせが発表される。
『Aブロック、A級探索者アルベルト対A級探索者ザイード! Bブロック、A級探索者アルフレッド対なんとF級探索者!佐藤響の対決だァァァ! 上級本戦唯一のF級探索者! 巷では英雄伝をよく聞くが、その実力が試される!』
と、ジョンの実況を控え室で聞いていた響の心臓は一際大きく跳ねた。
「ヘイ主人公! 早速当たったな! 俺としてブロック決勝だと嬉しかったんだが……主人公の実力見せて貰うぜ?」
ポンと肩に手を置きニカッと笑うアルフレッド。
「まさか最初から当たるとは思いませんでしたね! 全力で戦いましょう!」
響も笑顔で返し、二人はフィールドへと向かった。
アルフレッドが1試合目で見せた圧倒的な戦いは、よく覚えていた。
──アルフレッドさんは超接近戦が得意みたいだし、ちょっとやりずらい相手だな。あんまり懐に入られないようにしないと……!
少しの緊張と期待を胸に一歩また一歩とフィールドへと近づいて行く。
そのすぐ後ろをフードを被ったアルベルトと、アルベルトに声をかけたが無視されたしかめっ面のザイードがついて行く。
そしてフィールドに出ると、一回戦とは比較にならないほどの大歓声が四人を迎えた。
「いけー!主人公ー!」
「また伝説をつくってくれー!」
「負けんなよアルフレッド!」
などなど、歓声の大半がBブロックに向けられたものだった。
アルベルトやザイードに向けられたものもあるが、知名度のある響と、先程の華のある試合をみせたアルフレッドに注目が集まるのは仕方ない。
そんな大歓声の中、それぞれが自分の戦いに集中して位置に着いた。
「落ち着け……いつも通り、平常心だ」
鬼哭の柄を握り、高ぶる気持ちを抑え込む。
アルフレッドも既に構えており、ゴングとともに動けるように一定のリズムで跳ねている。
「ユー! 楽しもうぜ!」
これから戦う相手にそう言って笑顔を向けるとは、どこまでも気持ちのいい男だ。
『さぁ大注目の1戦だ! お前ら目ん玉見開けよ? 瞬き厳禁だ! 四人とも位置に着いたな? 俺達に熱いバトルを魅せてくれ!! 3、2、1……試合開始だァァァァ!』
カーンとゴングが鳴り響き、遂に2回戦が始まった。
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