101話 ユー!楽しもうぜ②


「おいおい、カッコイイじゃねぇかユー……!」


ゴングと共に鬼哭に雷を纏わせた響を見て、その危険性を感じ取ったのかアルフレッドは額に汗を滲ませていた。


先ほどしれっと目目連で覗き見した響だが、彼を警戒しての行動だ。

アルフレッドのステータス値は剛力よりも少し低いくらいで、とても手を抜ける相手ではない。


あれから更に強さに磨きをかけている響だが、響自身がそうであったようにある程度のステータス差があったとしても、どんでん返しは起こりうる。

最初から高火力の攻撃で腕輪を破壊するつもりだった。


「全力で行かせてもらいますよ」


とはいえさすがに黎明之刻は使えない。威力が高すぎて貫通する恐れがあるからだ。

それは腕輪の魔法も、観客席の魔法障壁もだ。

そういった意味で、この大会で響が100パーセントを出す事はない。


響は更に迅雷を自身にも纏わせる。


『何やら佐藤選手の身体に雷が迸っている!? 最近話題のこの男、一体何を見せてくれるんだ!? ──おおっと、アルフレッド選手もこれに対抗意識を燃やしている!』


驚く事にアルフレッドは拳に炎を纏わせた。

火魔法の応用技なのだろうか。なんにせよ、火力が上がっているのは間違いない。


「俺のもカッコイイだろユー? いくぜ──ぁ?」


そう言い終えた直後、アルフレッドの視界に響の姿はなかった。

迅雷・纏は短時間とはいえ超速戦闘を可能にする技であり、初見でこれを見破るのは非常に難しい。


一瞬で背後に回った響は鬼哭の振り上げる。


アルフレッドの反応は、突如視界から消えたせいでゼロコンマ1秒遅れた。

気づいた時には既に響は鬼哭を振り下ろしている最中。必死に回避行動をとるも、アルフレッドの身体が動くよりも刃が迫る速度の方が断然早い。


「嘘だろ……?」


背中に伝わる衝撃は痛みこそないものの、かなりの威力である事が分かった。そして、それに腕輪が耐えられない事も。


パキとアルフレッドの腕輪がひび割れる。


「飛燕ッ!!」


そして追撃。

零距離で更なる斬撃を浴びせると、腕輪は限界に達したのか飛燕の威力に耐え切ることが出来ずに完全に破壊された。


「ふぅ……俺の勝ちですね」


鬼哭を納刀し、未だ状況をあまり理解出来ていないアルフレッドに向けて微笑んだ。


その瞬間、大気が揺れるほどの大歓声が湧き上がる。

一回戦で高い実力を見せつけたアルフレッドを、F級探索者である響が完封したのだ。


『び……Bブロック決着! 我らが主人公がやってくれたァァァッ! またもや伝説を作ってしまったこの男! F級の身でありながらA級探索者のアルフレッド選手を完封してしまったァァ!!』


アルフレッドはあまりの出来事にその場でヘタリ込み引きつった顔で、


「これ夢だったりしない?」

「……残念ですけど、現実みたいです」

「だよな……かなりショッキングだが負けは負けだ! ユー、優勝するんだぜ」


相当悔しいはずのアルフレッドだが、気持ちを押し殺し響に激励を送った。響もしっかりと彼の目を見て頷いた。




「おお、やるじゃんF級君。少しは手こずるかと思ってたけど……アイツはやっぱ有望株だな」


VIP席にて響の戦闘を見ていた翼が感嘆の声をあげる。翼はアルフレッドの事も評価していた。それを瞬殺するとなれば響の評価は相当なものだろう。


「響……すごい……!」


他の試合は大して興味もなさそうだったミアも、さすがに響の試合だけはしっかりと見ていた。

しっかりと勝ち抜いた響を見てなんだか誇らしそうだ。


「……」

「どうしたのじゃクラッド! 珍しく真面目な顔してるのじゃ」


試合には目もくれず腕組みをして何かを考えているクラッドを見て、不思議そうな顔をしてウルが言った。


「うーん、皆呑気すぎじゃないっすか? さっきの話、無視できないと思うんすけど……」

「あー……リリアの言ってたやつか。あんなのは想定内だ。寧ろあの程度で気が抜けちまったよ」


コーヒーを一口飲むと「お、中々美味いな」と、本気であまり気にしている様子はない。

と言うより、リリアは出ていってしまったのでこの場で気にしているのはクラッドただ一人だ。


翼はコーヒーを一気に飲み干すと「そもそも」と、付け足し、


「この大会はアイツら・・・・を誘き寄せるためでもある。来てもらわなきゃ困るぜ。それに、事が起きる前に俺らが動いたとしよう。トカゲの尻尾切りされて終わりだ。何のために俺がカグヤなんかに声掛けたと思ってんだ。そんな事気にしてる暇あったらアルベルトの応援でもしてやれよ」


言いながらも翼はアルベルトの試合にはあまり興味が無さそうだ。

アルベルトはクラッドやリリア、ウルと一緒で元々翼とパーティを組んでいた。


多くの修羅場を共にした仲間だからこそ、その実力をよく理解していた。

相手がアルベルト相手に数分でも耐え凌いでいけば、そこで初めて相手に興味を持つだろう。


それが出来ればの話だが。


「それはそうっすけど……うーん、でもアルベルトは心配ないっすよ……アレに勝てる選手は限られてるっすから……あ、ほらもう終わりそうっすよ」


言っているそばから、Aブロックの試合は佳境を迎えようとしていた。


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