第2話 転移トラップ


「皆無事か!?」


転移が完了し即座に宮田が安否を確認。

幸いただの転移トラップで、今現在どうこうなってはいないようだ。


転移先は先程の洞窟のようなダンジョンとは全く異なり、巨大な屋敷のような所だ。古びた障子には所々に穴が空いている。


「ここは……一体?」

「へー、和風ダンジョンか。珍しいな」

「くそ! 予想外だが、所詮はEランクダンジョン。さっさと終わらせよう」


だだっ広い和室にぽつんと10人の探索者。畳と障子に囲まれ、奥の方にはなにやら掛け軸や碁盤ごばんあるだけで、モンスターなんて影も形もない。


──なのに、なんでだろう。誰かに見られてるような……


響は転移してからすぐに異変を感じとっていた。他に誰もいないこの空間で、ねっとりとへばりつくような視線を感じている。


「でも宮田さん、終わらせようにも肝心のモンスターがいないですよ」


誰かが言った。


「それはそうだな……よし、手分けしてこの部屋を探索しよう。何かあったら直ぐに知らせてくれ」


宮田の提案通り各々が散らばって部屋を調べ始める。1人は障子を開けようとするが、全く動く気配はない。また1人は掛け軸をあらゆる方向から見るが、こちらも何の変哲もないただの掛け軸のようだ。


響は視線に脅えながらも隅にある机に向かった。

机の上には巻物の様なものに文字が書かれている。

かなりの達筆だが、ギリギリ読めなくもない。隣には碁盤があるが、こちらは至って普通の物だ。


「宮田さん、これなんか書いてあるっすよ」


言いつけ通りに宮田を呼んだ。すると、他の探索者までぞろぞろと集まってきた。


「巻物? 響君、読んでみてくれ。何かわかるかもしれない」

「あ、はい。えっと……碁打ちの魂は悠久ぅ? 多くの……目を持ちし」

「──ひぃッ!」


その時、誰かが短い悲鳴をあげた。

集中して読んでいた響はビクッと身体を震わせ、問いかける。


「焦ったぁ……あの、ゴキブリでもいました?」

「……」


冗談めかして言ったつもりだが、彼女はふるふると首を横に振り、ある一点を指さした。


「障子がどうかしたんすか?」

「目が……あそこに目が……」

「目ぇ? 障子に目、ねぇ……」


響がいくら障子を睨んでみてもそれらしきものは確認できない。

所々破れ、その先の黒が目のように見えていただけなのかもしれない。響は彼女の異様な怯え方が気になったが、再び巻物に目をやった。

その時だった。


「な、なんだ、これは……?」


宮田が上を向き呟いた。それに釣られ全員が上をむくと、


「天井に障子が? さっきまではこんな物なかったぞ! 気味が悪い……なんなんだここは!」


高見が叫ぶ。もしかしたらそれがいけなかったのかもしれない。

叫ぶと同時にぶわぁっと無数の障子に眼が現れ、こちらを覗き込んでいた。


「~ッ! か、構えろッ!!!!」


誰かがが声を上げると、それに続き他の者達も続々も獲物を構える。


「障子に目が……なんだよこれ!」

「わかんねぇよ! 気持ち悪い」

「アレと戦うのか……?」


しかし眼はこちらを覗き込むだけで、それ以外の事は何もしなかった。

左右と天井から無数の目が探索者達を舐めるように見ている。害はないが、相当に気持ちの悪い光景だ。

そんな中、響だけは変わらずに巻物の解読をしていた。


──決して目を合わせることなかれ。


解読した瞬間、目から入る情報と耳から入る情報が合致した。

その瞬間に全身の毛が逆立つのを感じた。


「皆見ちゃ駄目だッ!!!!!!」



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