第1章

第1話 最弱の覚醒者


ダンジョンに繋がるゲートが現れて3年。

そしてそれと同時に覚醒者と呼ばれる人間が現れた。


覚醒者達はそれまでの常識を覆す力を持ち、その等級もFからSと幅広い。

A級以上ともなれば十分に人外の域に達しているが、反対にF級は一般人とさほど大きな差はない。

違いがあるとすれば、レベルアップして多少強くなれるという事位か。


何故ダンジョンや覚醒者と呼ばれるもの達が誕生したのかは誰にも分からない。

覚醒者やダンジョンが突如現れてからしばらくは世界中が大混乱に陥ったが、今では双方なくてはならない存在にまで成り上がっている。


「才能あるぞ、ねぇ……」


探索者シーカー研修で最強の探索者馬渕翼まぶちつばさに言われた言葉だ。

彼はその言葉を信じてこの2年間、ダンジョンに潜り続けている。


成果はほとんどない。ボヤいている彼はF級で、最弱なのだからそれも当然。

対する憧れの翼は世界一のS級探索者シーカー。世界一の言葉がなかったら、とっくに諦めて他の道を探している。


そして彼は今日もダンジョンに挑もうとしていた。

そのダンジョンが彼の運命を大きく変えるとは知らずに……


────


──



ダンジョンは多人数での攻略が基本となる。そのため地域によっては毎度馴染みの顔が居ることも珍しくはない。

工事現場に突如現れたゲートの周りに今回の攻略隊が集まっていた。


「お、今日も来たか高見君」


喫煙所で皆の集合を待っていた髭面で中年の男が言った。


「あれ、宮田さん引っ越しの準備するんじゃ?」

「ははは……ちょっと色々あってな。もう少し神奈川にいる事にしたんだ」


誤魔化すように笑った宮田を見て、スッキリとした好青年の高見は確信した。

ギャンブルでスったな、と。


「ふっ……ま、まあ普通に働くよりも断然ダンジョンは稼げますからねぇ。分かりますよその気持ち」


思わず鼻で笑ってしまった事後悔し、急いでフォローした。

高見の言う通り、ダンジョンと言うのは金を稼ぐにはもってこいの環境だ。トップクラスの探索者シーカーは一日で数千万から数億程稼いでいる。

勿論、相応の危険は伴うが金の魔力とロマンに負けて、探索者を続ける人間は腐るほどいる。


宮田はぷはーとラッキーストライクを深く吸い込み、吸殻を捨てるともう1人馴染みの顔を見つけた。


「おーい、響君」


響と呼ばれた青年は、スラリとした長身で温和そうな顔立ちをしている。


「ちっす宮田さん! また稼がせてくださいね」

「ハハッ、何を。たまには役に立ってくれよ?」

「あー……頑張りますよ今日は」


適当に返事をし、響はそのまま通り過ぎた。ゲートの前に立つと、他の探索者も宮田のように気軽に話しかけている。


「はぁ……どこ言ってもこんな扱いか。あーやだやだなんで俺はF級なんだろ……さっさとゲートも開いてるしさっさと入ろっと」


F級の自分に周りが期待していないのならまだマシだ。だが自分より上のランクの人間に気を使われているのが嫌だった。

弱い。ただそれだけだが、探索者にとってそれは致命的。

ため息をつき、響は逃げるようにゲートへと入っていった。


それを見た高見は不安そうな顔で、


「佐藤君かあ……大丈夫かな彼」

「最弱の覚醒者なんて呼ばれちゃいるが、彼も男だやる時はやってくれるさ」


それを聞くと高見は呆れたように溜息をつき、


「あれって本当に覚醒してるんですかね? うちの息子は未覚醒だけど、もうちょっと動けますよ」

「まあそう言うな。F級覚醒者なんて、一般人に毛が生えた程度だろ? それに、今日はEランクダンジョンだ。金にもならないが危険も少ない。いざとなったら守ってやってくれよ? 君はD級なんだから」


がははと豪快に笑う宮田を見て、高見も少し笑いながら、


「何言ってんすか。宮田さんC級じゃないですか。あ、ゲート解放されるみたいですよ! 俺達も行きましょうか」


────


──



ダンジョンの内部は岩山をくり抜いたようなそんな場所だった。

壁も地面もゴツゴツとしていて、あまり歩きやすいとは言えない場所だ。


「もうすぐボス戦だ皆、気を抜くなよ」


今回の攻略リーダーを担った宮田が言った。

ここまで来るあいだ響が手に入れたのは、F級の魔石と同じくF級モンスターの素材が一つずつのみ。

探索者組合に持っていけば、2万程は貰えるかもしれないがとても十分とは言えない。


──でも、今回はヒーラーの人いないし帰ったら病院行かないと……結局1万くらいか? もう少し稼がないと新しい武器は買えねぇよなぁ。


致命傷ではないが、響はゴブリンの一撃を左腕に受け大きな傷を負っている。残念な事にE級ダンジョンは最低ランク。通常、ヒーラーなんているだけ無駄なのだ。


現在使用している刃こぼれした長剣を見て盛大に溜息をつくと、先頭の方で何やら問題があったのかざわついている。


「おいおい、これってまさか……」

「ああ、そうだ。俺達運がいいぞ!!」

「宝箱だ!!」

「噂には聞いてたけど、本当にあるんだ」


全員で古びた宝箱を囲み、物珍しそうに覗いている。そこへ宮田が1歩前に出ると、


「よし、ボス戦の代わりに宝箱なんてそうそうあることじゃない! 俺達は最高に運がいい。そこで、この中身の売却した時の取り分だが……ここまでの成果で配当を変えるのはどうだろうか。頑張った人が多く貰え、そうでない人は少なくなるがそれは自業自得だろう」


宮田は10人の中で唯一のC級覚醒者。従って自然にモンスターの討伐数や、貢献度が高くなる。自分の配当を大きくしたいが故の提案だ。


──え、絶対俺1番すくねぇじゃん! 冗談じゃねぇ。宝箱は均等に分配するのが常識だろ!


とは思ったもののそれを声にする勇気を響は持ち合わせてはいなかった。なぜなら、周りの皆はそれに納得しているようだったから。


「異論は無いな? では、開けるぞ」


響は溜息をつき、恨めしそうに宝箱を見つめる。

すると、ある異変に気付いた。


宝箱は獄低確率でフロアボスの代わりに1度に限り出現する。それなのに、目の前の宝箱には手跡が複数残っている。

つまりそれは、1度以上宝箱が出現した事を意味する。


「宮田さん待っ──」


咄嗟に止めに入ったがその時にはもう遅かった。

宮田が宝箱を開くと同時に、周囲には魔法陣が出現。


「馬鹿なッ! 転移トラップだと!?」


そして攻略隊は全員その場から転移した。

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