第31話 ふたりぼっちの攻略隊①
「合計で95000円ですが、如何なさいますか?」
ボケっと突っ立っている響に、職員が少し不機嫌そうに言った。因みにこれは2回目だ。
先程の少女の事で頭がいっぱいになっているのだ。
因みにだが、女性経験がほぼない響があの後上手く立ち回れる訳もなく、名前すら聞けないまま少女はエレベーターに入っていった。
その際、ペコリとお辞儀してくれたのだがそれにすら悶えていたのだから重症だ。
「あの! お客様!」
遂に堪えきれなくなった職員が、机をバシバシと叩いて猛アピール。
そのおかげで我に返った響は「あ、は、はい。お願いします」と気まずそうに答えた。
──さっきの子可愛かったなあ。くそう、せめて名前くらい聞いとくんだった。
「聞いたところでどうにもならない、か。はあ……このまま帰るのもあれだし、良さげなダンジョンがあったら行こうかな」
気晴らし、という訳でもないがなんだかこのまま家に帰るのは嫌だった。
1階に降りて低ランクのダンジョンボードを眺める。
ダンジョンボードとは名前の通り、ダンジョンの出現が記されている大型のモニターだ。
各ランクのボードにあるダンジョンから気に入ったものを選び、同意書に記入し提出。
正常に受理されればすぐにでも攻略を始められる。
あまりスマホ検索との差はないが、換金ついでにと立ち寄る探索者は非常に多い。
──Eランクはこの間余裕だったし……Dランクダンジョンでも行ってみるか? んんん、どうしよう。
付近のDランクダンジョンで今公開されているのは全部で3つ。
距離も大して差はないので、どれをとっても同じだろう。
とは言ってもDランク。Eランクダンジョンと比べると危険度は遥かに増す。
Eランクをソロ攻略できたからと言って、安易に選択出来る内容でもない。
「あれからまたレベルも上がってるし、多分大丈夫だ。行ってみよう!」
サラサラと同意書を記入し受付へと向かう。幸い人はほぼ並んでおらず、すぐに順番が回ってきた。
「お願いします」
「はい、Dランクダンジョンですね。……あのすみません、佐藤様の等級で単独はちょっと……」
と、最早テンプレになりつつある職員の対応。
──やっぱこうなるよなあ。ステータス見てもらえば大丈夫なんだろうけど、測定器だいたい並んでるんだよな。
「あの、Eランクダンジョンは何回かソロ攻略して問題なかったんですけど……」
問題ないどころかかなり余裕のある攻略ですらあった。
しかし、
「運が良かったんですね。でもDランクダンジョンはEとは訳が違います。どこか攻略隊に入れてもらうか、せめてD級以上のベテラン探索者の方を連れてきて頂けたら検討します。申し訳ありません」
「そう、ですか……」
──運が……良かった? ふざけんな、そんな言葉だけで片付けんなよ。この2年間、やっとの思いで強くなれたんだ……それを、そんな一言で……!
この職員に悪気はない。それは響も分かっている。
腸が煮えくり返る程、響にとってその一言は強烈だった。
やり場のない怒りを無理やり心の奥底に押し込み、その場を去ろうとした時、
「ミア……この人と行く。ミアはD級……あとベテラン……? だから大丈夫……だよね?」
職員との間に割って入ってきたのは先程の少女だった。
「えっと、はあ……そういう事でしたら……」
響がポカンと間抜け面をしている間に事は勝手に進んでいく。
ミア、と名乗る少女はその場で同意書をサインをすると、職員はそれらを受理した。
──あれ、何がどうなってんの? フラグ回収雑じゃない? もうちょっとなんかこう……いやそうじゃない!
「あの、君はさっきの……」
「さっき……助けてくれた。だから……今度は、ミアが助ける……番っ!」
ふんふんと何やらやる気満々に目を輝かせいているミア。どうやら彼女は律儀な性格をしているみたいだ。
「じゃあ、よろしくお願いします?」
こうしてフラグは無事回収され、ここにふたりぼっちの攻略隊が誕生したのだった。
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