第25話 ある組合員の憂鬱


探索者組合管理課。

だだっ広い室内で多くの組合員がPCと睨めっこをしている。

ここはその名の通りダンジョン管理を目的とした部署であり、異常やクリア報告があれば直ぐに報告が入り、適切な処置を行っている。


そんな忙しい管理課に、昨年新入社員として入ってきた扇美代おうぎみよ

燃えるような赤い髪が特徴の彼女は、B級覚醒者の資格を持ち、週に一度はダンジョンに挑みながら業務を全うしている。


そして美代のPCに1件の新着メールの文字。

美代は脳死状態でそれを開くと、


「……あちゃあ。これは駄目そうだなあ」


内容を確認するとため息をついた。

なにか良くない報告でもあったのだろうか。


美代はおもむろにスマホを取りだし、執行部に電話をかけた。

プルルルと無機質な音が鳴ると、美代は先程の気だるげな表情から一転、キリッとした表情に変わる。


「お疲れ様です。管理課、扇です。横浜市のE級ダンジョン監視員から連絡がありまして……F級探索者がソロでダンジョンに入ったまま72時間が経過してしまったみたいです。D……いえ、C級以上の攻略隊の派遣をお願いします」


どうやらダンジョンに入って72時間が経過したらしい。

72時間と言うのは探索者が極めて危険な状況、又は死亡の可能性が非常に高くなるボーダーラインとなっている。

監視員より連絡が入ると、適切な等級の攻略隊が派遣され探索者の救出及び、ダンジョンの攻略が強制執行される。


「はい……はい。ではよろしくお願いします。ふぅ……F級でソロなんて……監視員もなんで通しちゃったんだろ」


監視員への愚痴をこぼし、美代は憂鬱な顔で再び業務へと戻った。


────


──



「風呂に……入りたい……」


ダンジョンに入ってから約70時間が経過した。

その間響はひたすらに復活したモンスターを殺し続けていた。


一睡もせずに夢中で戦い続けられたのは、目目連によるレベルアップ通知のおかげかもしれない。

確実に強くなっている実感と、それが目に見えるというのは精神的な支えになる。


しかし、それも度が過ぎれば意味はない。

端的に言えば心身ともに限界を迎えていた。


「ステータス」


【ステータス】


Fランク覚醒者 佐藤響 Lv78

HP:350/690 MP:85/145


功績:ジャイアントキリング


力53

防御力42

知能46

速度49

精神力58


スキル

・不屈の精神Lv5

・目目連Lv2

・臨界点Lv7

・弱点特攻Lv4

・ライトニングボルトLv2


表示されたステータスは長時間に及ぶ戦闘の賜物。

既に武田よりもステータス値は高い。

恐らく世界中のF級探索者の中でトップクラスの数値だろう。


「おお……おお! これが俺のステータス……? 頑張ってよかった……本当に。この位ならボスも余裕で倒せるはず。場所もわかってるし、ちゃっちゃか攻略しますか!」


成長した自身の数値を見るとある種の感動が生まれた。

F級として見下されていた自分がここまでのステータス値になるなどとは、少し前の響なら想像もしていなかっただろう。


そしてこの70時間、なにもモンスターだけを相手にしていた訳ではない。

当然の事ながらボス部屋への降り口も把握しているし、そこに向けて準備もしてきた。


疲労はあれど、Eランクダンジョンのボスなど今の響の敵ではないだろう。


地下への階段は響が鬼ごっこでたどり着いた場所にある。壁の1部を押すと隠し扉が開かれる仕様だ。


途中襲い来るモンスターを難なく斬りながら、てくてくと歩いていく。

最早ホームと化したこのダンジョンで緊張等忘れてしまった。


「ポチッとな」


行き止まりに着くと、躊躇いもなく若干凹んでいる箇所を押した。

ゴゴゴと、低い音を響かせ壁が動いていき、やがて地下へと繋がる不気味な階段が姿を現した。


ルンルン気分で階段を降り続けると、3メートルはあろうかと言う巨大な扉が見えてきた。

いかにもこの先ボス部屋です、と言わんばかりの威厳のある扉だ。


「サクッと倒して風呂入って寝よう!」


なんとも緊張感のないセリフを言って、響はその扉に手をかけた。

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