50話 プチデート
翌日の深夜、響は誰にも見つからないように窓から病室へ戻った。
飛び出して向かったのは1番近かったEランクダンジョン。
結果は言うまでもなく余裕のクリア。
ボス含め全てのモンスターを一撃で倒すまでに成長していた。
今の響ならCランクダンジョンだったとしても、無事に出てこれるだろう。
「Eランクじゃ弱すぎたか……ちょっと遠くてもDランクに行けばよかったな。でも、すげえ強くなってるのはわかった! 今の所はそれで十分!」
響は布団に入るも暫く興奮が収まらず、意識を手放したのはそれから二時間後だった。
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「なんか一日しか入院してないけど、長く感じたな。ミアはもう平気か?」
無事退院した響は近くの公園でミアとベンチに座り、日向ぼっこにいそしんでいた。
「……ん……平気……響は、でるの……? ……大会」
「大会? なんの?」
首を傾げる響を見て話が通じていないと判断したミアは、スマホをポチポチと操作してある画面を見せつけた。
「なになに……馬渕翼プロデュース……武闘大会ぃ? なんだこりゃ! 全然しらなかった」
それもそのはず。昨日はダンジョンへと飛びだしてからスマホを確認していない。
どのサイトも大々的に取り上げているほど、今注目のイベントだ。
あの馬渕翼が開く大会だ。注目されない方がおかしい。
「……ゆーしょーしょーきん、10億円……響、でる……?」
ゴゴゴとミアからは謎の圧が放たれる。
どうやらこの少女、金が欲しいらしい。目がドルマークになっている。
「じゅ、10億!? でもA級探索者とかいっぱい出るんだろ? 流石になあ……」
A級と言えばクラッドやエレナだ。二人が相手なら逆立ちしたって勝てはしないだろう。
かなり強くなったとはいえ、覚えている彼らのステータスは今の響の倍程もある。
それに他にも猛者は出場してくるはずだ。
優勝賞金や副賞がいくら豪華だったとしても、現実味がない。
やっぱり出るのはやめよう。と言おうとしたタイミングでミアがある一文を読み上げた。
「等級……別れてる。……Fから、Cと……BからA。……Sはダメ。でも……しょーひん、同じ」
どうやら馬渕翼という男は、下級覚醒者のことも考えていたらしい。
FからCも十分差があるが、それ以上細かくし始めるとキリがない。
逆にBとAならば、レベルにもよるがある程度戦いにはなりそうだ。
響の等級はF。今のステータス値はとてもF級とは言えないレベルに達している。
「それならワンチャンあるな!」
ワンチャンどころの騒ぎではない。下級覚醒者で響と渡り合えるのは、C級覚醒者の高レベルのみ。
一般的な下級探索者なら無双できるはずだ。
「そう言うと……思った……響、10億円……!」
ここぞとばかりに目を輝かせてこちらを見つめている。
「拒否権はないんですね!? わかったよ、出る出る。でも、優勝出来なかったからって怒んなよ?」
「……大、丈夫。……響なら、ゆーしょー」
やれやれと言った様子で自分のスマホを取りだし、大会のサイトに飛んだ。
ミアの言った通り大会は二種類に別れており、開催は3ヶ月後だそうだ。
それからポチポチと操作し、下級の武闘大会にエントリーを完了させた。
「ほい、エントリー完了! ミアも出るんだろ?」
「……ミアの分まで……がんばっ……!」
「いやでないのかよ! 」
ミアはしたり顔で親指を立てグッジョブ。
響はなんだか騙された気分になったが、確かにミア自身出場するとは言っていない。
こうして響は10億円ミッションを引き受けたのだった。
それから二人は近場のカフェに場を移し、のんびりと過していた。
響はアイスカフェオレを注文し、席に着くなり半分程一気に飲んでしまった。
ミアはカフェオレに大量のガムシロを追加し、満足気にストローでちゅーちゅー飲んでいる。
「うわぁ、俺それ絶対飲めないわ」
常識外れなガムシロの量に思わず声が漏れる。
ガムシロのゴミを数えると全部で7つ。シンプルに入れすぎだ。
「ん……一口、飲んでみる……?」
首をこてん、と傾げカフェオレ……いや、ガムシロオレを差し出す。
「人の話聞いてたかな? 聞いてないよね」
「響……いじわる……もう、あげない……!」
「うんいらない!!」
光の速度で断るとぷくっと頬を膨らませ不満気な表情。
「……ミア、響とは……わかり、あえない。……明日、北海道……帰る」
「んな大袈裟な……てか、北海道だったのか。全然知らなかった」
「冗談……でも、帰るのは……本当」
驚きを隠せない響は危うくカフェオレを倒しそうになった。
ついこの間、これからも一緒にダンジョンへと言ったばかりだ。
それがまさか、北海道に帰るとは。
「……まじ?」
「ギルド……抜ける、だけ……すぐに、戻ってくる……響、寂しい……?」
「べ、別に寂しいとか思ってないし!?」
中々素直になれない響は、カフェオレをゴクゴクと飲んで誤魔化した。
「……ばか……」
どうやら答えを間違えたらしい。
だが素直に寂しいと言えないのも男の子らしいと言えばそうだ。
「でも、なんで急に?」
「響と……約束、したから……」
照れくさいのか、ガムシロオレを見つめるミアは少しだけ顔が赤くなっていた。
そしてそれは響も同じだ。
「そ、そっか。ありがとうミア」
「ん……」
それから二人は他愛もない会話をしてから店を出た。
気付けばもう日が沈み始めている。
「そろそろ帰るか。明日朝一でいくんだろ?」
「……そうする……響、これ……」
ミアはおもむろにスマホを取りだし、QRコードの画面を見せた。
「そう言えばライム交換してなかったな!」
ライムとは主流snsの一つで、無料トークと無料通話で人気を博した優れものだ。
ミアのスマホに自身のをかざすと、ピコンと音がなり無事連絡先を交換できた。
「……ふへへ……また、ね……響」
ミアは嬉しそうに微笑みスマホを抱きしめるとテクテクと歩き出した。かと思ったら少しした所で振り返り、小さく手を振った。
「あーくそ、なんだよあの生き物。可愛すぎるだろ」
響はニヤケ面で手を振り返し、もんもんとした気分のまま帰路についた。
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