51話 不完全燃焼
「じゃあ気を付けてな」
「ん……送ってくれて……ありが、とう……」
羽田空港で響はミアを見送った。
と言っても明日には帰ってくるので別れの挨拶は随分簡素なものだった。
ミアが見えなくなるまで見送り、やがて視界から消えると響も踵を返し駅へと向かった。
空港から横浜まではだいたい30分程度。
ゆらゆらと心地よいリズムで揺れる電車で、うたた寝していた響にとってはあっという間だ。
ホームである横浜に到着し、たまった魔石などを換金するために焔ギルドへと向かった。
「全部で35万円ですが、いかがなさいますか?」
「お願いします」
今回は中級魔石に良い値がつき、ある程度量もあったので纏まった金になった。
少し前なら想像も出来ないような事ではあるが、響は素直に喜べなかった。
──フラクタスの魔石取り忘れちまったからなあ……それがあったらと思うと泣けてくる……!
そう、あの激戦を制してから響とミアは魔石の採集をすっかり忘れてしまったのだ。
他の二体のドラゴニュートの分も取り忘れている。
それ所ではなかったのは間違いないが、中々痛いミスだ。
「ありがとうございました」
現金を受け取り、ダンジョンに向かうべくダンジョンボードのある1階へと移動。
「あれなんか自然にダンジョン行こうとしてないか俺。……まあいっか暇だし!」
きっと心の奥底ではまだ、昨日の余熱が息をしているのだろう。
「ありゃ、Cランクダンジョン近いのないじゃん。Dランクで我慢するか……」
ステータスも上がったのでCランクダンジョンへ!と思っていたのだがタイミングが悪かったらしい。
Dランクの用紙を記入し、受付へ持って言った。
「執行部のエレナさんから特別に許可を貰ってますんで、お願いします」
そういって用紙を渡したが、真っ赤な嘘だ。
「エレナさんから……それなら、大丈夫です。お気を付けて」
──凄いすんなりいったな。さすが権力! エレナさんには今度会った時にでも謝ればいいよな……?
佐藤響は存外ずる賢い男だった。
────
──
─
今回のダンジョンはオーソドックスな洞窟タイプだ。
土壁がひんやりと冷気を出していて、少しだけ肌寒い。
「さて、ちゃちゃっとやりますか」
やる気満々で歩き出すと早速モンスターのお出ましだ。
のそのそと槍を持ち歩いてくるのは槍を持った一体のオークだ。
豚と人が混ざったようなオークは、武器を使用するが人と比べると知能は低く簡単な罠に引っ掛かる。
巨体故に速度はない。だが力に全振りしたその一撃は目を見張るものがある。
「ブヒイイイッ」
響を見つけるやいなや、雄叫びを上げ即座に飛び出してきたが──
「遅せぇよ」
抜刀。
その刹那、オークの首は転げ落ちた。
目にも止まらぬ早さで、ただの一振のもとオークの太い首を切り落としたのだ。
血液が吹き出し辺りに生臭さが漂い始める。
響は白光に着いた血を払い納刀。
一連の動きは無駄がなく、見事と言わざるを得ない。
──やっぱりまだ慣れないな。急成長しすぎたせいか変な感覚だ。これに早いとこ慣れないと、いざと言う時に困る。
かつてないほどの急成長は、感覚を鈍らせる。
響は今の動きでさえ不満だった。
「とにかく、考えるよりも行動だ!」
ぶるぶると頭を振り、少しでも早く場数を踏む為先へと進んだ。
歩き続けていると今度はオークの集団。数は8匹だ。
だが先程と違うのは、それのどれもが完全武装している事。
オークナイト。通常のオークの派生モンスターであり、戦闘能力も高い。
鉄の甲冑を身にまとい、槍や剣、弓と獲物も様々だ。
「またオークかよ……お呼びじゃないんだよ!」
響は地を蹴ると同時にサンダーボルトを放ち、続けて白光を抜こうとしたが、
「……あれ?」
今までのサンダーボルトとは別次元の出力の雷が雷鳴と共にオークナイトを焼き尽くした。
たった一撃で集団の全てを倒した響だが、どうにも想定外だったらしい。
「サンダーボルトさんってこんな強かったっけ……?」
自分の身体のことならまだ何となく想像はつくが、スキルとなると話は別だ。
お試しのつもりが、かたがついてしまった。
「うんまあ……次行こう……」
不完全燃焼だが、別に悪い事ではないのでとりあえず飲み込んで攻略を再開した。
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