86話 おもちゃのチャチャチャ①


「ここが、疑似ダンジョン……?」


転送先はまるで子供のおもちゃ箱の中のようなダンジョンだった。

数メートルはある三角形の積み木が転がっていたり、機関車でもはしっているのか線路まで用意されている。


カラフルな壁紙、バネの伸びたおもちゃやカラフルなボール、真っ赤なプレゼントボックスと大きさを除けば子供が好きそうなものばかりだ。


疑似ダンジョンなので自然発生するダンジョンとは異なるが、あまりにもファンシーすぎる世界だ。


「うーん、とりあえず武器を探さないとな。ていうか、このウィンドウみたいのってまさか……」


視界の端っこにはゲームでお馴染みのウィンドウのようなものがあった。


右上には同接数、その下にはまだゼロだがpの表記。

モモの言っていた視聴者ポイントだろうか。


ボケっとウィンドウを見ていると、ピコンと軽快な音が響き、視聴者からのコメントが表示された。


・主人公発見!!てかダンジョン尖りすぎたろwww


最初のコメントは、響にとって複雑な内容だった。

これまでの事件のせいで主人公などと、恥ずかしい二つ名が着いてしまった。


まさか一発目からそう呼ばれるとは思っていなかっただろう。


因みに今の同接数だが、開始数秒なのに既に500を超えている。

ニュースなどでなんども報道されたおかげで、視聴者数は稼げているのだ。


「これがライブか……すごいな」


・主人公頑張れよ!!応援してる!

・優勝は無理でも本戦くらいは行ってくれよ

・主人公が予選落ちする物語なんかないから大丈夫!


などなど、早速多くのコメントが寄せられている。


──好き放題いっちゃてまあ……主人公じゃないってのに。

「あの、攻略したいんでそろそろ行きますね」


・逝ってらっしゃい!

・おもちゃで遊んじゃ駄目だぞw


「これ閉じれ……ないのか。まあいいや、時間も審査基準にあるらしいし、急がないと」


ウィンドウを端から端まで確認してみたが、コメント欄をシャットアウトする機能はないらしい。


諦めてぐるりと周りを見回すと、東西南北に続く扉があった。

一瞬迷ったが、結局どこを選んでも変わらない気がして一番近い北の扉に向かった。


・そのプレゼントってただのオブジェなの?


ウィンドウの中で大量のコメントが流れる中、気になるコメントを見つけた。


「確かに……ありがとうございます。確認してみますね」


他は積み木やありふれたおもちゃが散らばっているのに、一つだけプレゼントボックスがあるのもなんだか変だ。

大きさは1メートル四方で、大体のものは入る大きさだ。


近づいてみると、箱の上に小さな文字でランダムボックスと表示された。


「ランダムボックス? って事は開けらるのか! でも、変なのだけは勘弁してくれよ」


・定番のミミックに決まってる。開けたら喰われるぞww

・いや、さすがにそこまで鬼畜じゃないだろ

・ポーションとか、武器とか?

・でもランダムだからミミックもありえるよな。知らんけど


様々な憶測で盛り上がっている中、響はミミック以外だったらいいなと念じ、花形に縛られているリボンを解いた。


「さて、何が出るかな……」


少しの不安と期待を胸に蓋を開けると、


・おおおおお!!さすが主人公wwwww

・これは主人公補正ですわwwwww

・初手に武器は運営優秀すぎる!!!!

・これ気付くのとスルーするのじゃ難易度めっちゃ変わるな。


箱の中にはどこにでもありそうな短剣が一本入っているだけだった。

響は基本、長剣の類しか使わないので短剣の心得は一切ない。


しかしそれでも徒手格闘に比べれば、あるのとないのでは随分変わるだろう。


「短剣かぁ……まあでもこれ以外にもなんかしら手に入りそうだし、今は我慢するか」


短剣を手に持つと、小さく《鉄の短剣》と表示された。

なんの捻りもない名前だ。

恐らく名前の通り大した武器ではないのだろう。


手に持ってブンブンと振ってみると、存外悪くない。

リーチこそないものの、手数や速度を重視した戦法をとればなんとかなりそうな気がした。


「うん、大丈夫そうだ」


短剣に満足した響は、北の扉を開けた。

扉の先には似たような空間があり、少し違うのは真向かいにしか扉がなかった。


正解の道なのかどうかもわからないが、とにかく今は進んでみるしかない。

そんな事を考えていた時だった。


転がっている四角い積み木の後ろで、何かが動いた。


「モンスターか?」


すかさず短剣を構え、赤色の積み木を睨む。


・初のモンスターさん!!

・でも全然出てこなくね?

・逃げ回る系モンスターなのか? だとしたらめんどくせえなww


モンスターの影を見てから少し待っても一向に出てくる気配がない。


「……?」


仕方なく積み木の裏へと回り込もうとしたその時だった。


「キィィィッ!!!!」


隠れていたモンスターが積み木の陰から飛び出し、持っていた手斧を振り上げ襲いかかってきた。


「おわぁっ!?」


咄嗟に短剣で弾き、バックステップで距離をとる。


・なんか出てきたwwwwwwwwww

・なんやこいつ……か、か、かわいいいいい!!!

・なんだこれwwwwww

・斧持ってるけどかわいい……!


飛び出してきたモンスターの容姿でコメント欄は盛り上がり始めた。


出てきたのは、50センチ程の小柄なモンスターだ。

かぼちゃの被り物をつけていて、頭でっかちの二頭身。

真っ赤な服を着て、おっさんのようにでっぷりとした体型で斧を振り回しぴょんぴょん跳ねている。


キイキイ鳴いているのは威嚇しているつもりなのだろうか。

ブサイクだがなんとも言えない可愛らしさがあった。


響はモンスターをじっくり見たあと、やるせないような顔で頭をかいた。


「これと戦うのかぁ……」

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