85話 佐藤響、転送!!
周りが盛り上がっている中、響はなんとも言えない気持ちになった。
「え、あれだけ? 翼さんほとんど説明してないじゃんか……」
翼の説明は至って簡素で、予選参加者が何人で、その内何人が本戦へと進めるのかすらなかった。
ただ、カプセルに入れと。
そして疑似ダンジョンをクリアしろと。
なるほど、確かに唯我独尊の馬渕翼らしい。
「ふふ、相変わらずだな彼は。さて、佐藤響。私達も遅れる前に行くとするか」
エレナは気にすることなく微笑み、響をカプセルへと促した。
数が足りなくなる事はないが、既に多くの探索者はカプセルに入り込んでいて予選への準備をしている。
「そうですね。じゃあミア、行ってくるよ!」
「ん……じゅーおく……がんば……!」
「あ、うん……」
当初の目的から一切ブレないミアは、ドルマークの目で響を見送った。
──10億は欲しいけど、今はこの人達にどれだけ通用するか……そっちの方が楽しみなんだよな。
徐々に戦闘狂になりつつある響は、賞金や副賞よりも自分の力がどこまで通用するのかに重きを置いていた。
「これに入ればいいのか」
カプセルの開閉ボタンを押すと、ウィィィンと機械らしい音を鳴らし上の部分が開かれた。
中は操縦席のような印象を受ける。
頭の部分にはヘッドギアらしきものがあり、これを被るとヴァーチャル世界へとログイン出来るのだろう。
「佐藤響、お互い本戦に進もう。健闘を祈る」
「はい! 絶対進みましょうね」
先に座ったエレナは、自身の力を疑っていないのか余裕そうな表情だ。
響の言葉を聞くと満足気に微笑みカプセルを閉じた。
「俺も行くか……!」
パンと頬を叩き気合を入れカプセルに入った。
観客席に向かうミアと目が合い、お互いに頷き合うとカプセルを閉じた。
中は空調が効いていて暑くも寒くもなく丁度いい温度だ。
フルダイブ型のゲームなどやった事もない響は、恐る恐るヘッドギアを被ると、
「おぉ!? おおおおお!? な、なにこれ!?」
真っ暗な視界は一転、文字通り0と1が無数に流れる世界へと早変わりした。
──これがゲーム!? 現実世界となんも変わんねぇぞ! 科学の進歩えげつないな。
試しに跳ねたり屈んだりと動いてみても、生身の身体となんら変わらない感覚。
そんな事をしていると、一面に流れる0と1が1箇所に集まり始め、徐々に人の形に形成されていく。
「うわっ、だ、誰ですか……?」
「初めまして。佐藤響様ですね。私は今大会予選の案内役、モモと申します」
ピンク色の髪をツインテールに纏めたモモと名乗る少女は、全体的に幼い印象を受ける。
白を基調としたアイドルのような衣装で、スカートをあげ優雅に頭を下げた。
どうやら詳しい説明などは彼女がしてくれるみたいだ。
しかしなんというか、製作者の性癖が露出しているような気がするが、それは気のせいだろう。
モモは戸惑いを隠せずにいる響をそのままに、
「予選説明は馬渕翼様からあった通り、疑似ダンジョンが舞台です。参加者は百八名。予定している通過者は三名です」
「さ、三人!?」
想像以上に通過者が絞られている事に、思わず声が出てしまった。
この会場に集まった中から三名となると、中々に厳しい数字だ。
「はい。その予定です。続きまして、審査基準の説明に入ります」
「は、はぁ……」
可愛らしい見た目だが、なんとも淡白な口調で話を続けるモモ。
響はなんとなく、この手の相手が苦手だなと思った。
「審査基準は大きく分けて三つです。まずクリアタイムと疑似モンスターを倒した際に得られるポイントとの合計です。例えば、最速でクリアしたとしてもボス以外のモンスターを相手にしなかった場合、得られる得点は大きくありません」
「……なるほどな。バランスが大事ってことか。でも、それじゃあもう一つは?」
そう、この二つでも十分に審査出来る内容なのだ。
しかし、モモは審査基準は三つあると確かにそう言っていた。
「はい。残る一つは、視聴者ポイントとなります。参加者の攻略の様子は常にライブで公開されています。視聴者には一人につき10ポイントが与えられ、一度のみ参加者に付与する事ができます」
「え、それって戦う所とかも丸々流されるのか!?」
つまり、参加者全ての戦闘スタイルやスキルが露見すると言う事だ。
本戦に向けて全力で挑めば完全に対策されてしまう。
かといって力を隠して敗退となってしまえば元も子もない。
「はい、そういう事です。また、事前情報にあるスキルなどは反映されていますが、未提出の物に関しては反映されませんのでご理解ください。ダンジョン難易度に関しましては、参加者のステータス値を元に変更されていて、体感難易度は同程度となっています。説明は以上となりますが、質問などはありますか?」
響の不安など気にすることなく、淡々と続けるモモ。
響は腕組をして必死に質問を考えるが、こういうのは肝心な時には浮かばないものだ。
そんな時、腰に下げていた鬼哭がない事に気がついた。
「あっ、武器とか装飾品ってどうなるんですか?」
「装備品の類は初期段階ではありません。ダンジョンには装備品が隠されていますので、そちらを発見してください」
装備品によるパワーバランスも全て平等らしい。
シンプルに、探索者としての力が試される大会みたいだ。
──なるほどな。ボスまでに雑魚を倒しながら武器とかは探した方が良さそうだ。
「分かりました。後は大丈夫です」
ざっくりとした行動を決めた響は、これ以上何かを聞こうとは思わなかった。
あとは探索者らしく、ダンジョンを攻略しようと決めたのだ。
「それでは、疑似ダンジョンへと転送します。佐藤響様、ご武運を」
ずっと無表情だったモモが最後に微笑みを見せるとその瞬間、響は疑似ダンジョンへと転送された。
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