84話 武闘大会予選開始
鬼哭を手に入れてから3日後。
今日から2日をかけて行われる大会当日だ。
響もそれに向けて今日までレベルを上げ続けてきた訳で、狙うは優勝だ。
S級不在ではあるが、A級以下の探索者で最強格が決まる大会だ。
「やば、なんか緊張してきた」
少し前まで最強など無縁の世界で生きてきた響は、柄にもなく緊張していた。
ディザスターゲートを封じ、A級探索者を倒したと言うのにそれでもまだ不安がないかと言えば嘘になる。
「がんば……!」
ミアは表情が硬い響の手を取りギュッと包み込む。
キラキラした眼で響に優勝しろと圧をかけているのだが、これは逆効果なのではないだろうか。
「が、頑張るよ……」
サッと視線を逸らし目を合わせずにそう言った。
そんな二人は今、神奈川県予選会場である横浜スタジアムに来ている。
ここは上級探索者用の会場であり、下級探索者の会場はまた別であり、ここにはB級以上の探索者しかいない。
参加者は神奈川だけでも100人程。
B級以上でも参加しない探索者も勿論いるので、これが全てではないが7割程度は参加しているのではないだろうか。
既にほとんどの参加者が集まっており、会場は殺伐とした雰囲気に包まれている。
「それにしても結構参加者多いんだなあ」
ぐるりと見渡すと有名所もちらほら参加しているみたいだ。
例えば、端の方で参加者を睨んでいるの背の低い男は見るからにドワーフの精鋭戦士だ。
その反対側で同じく参加者を値踏みしているのは、A級探索者でも屈指の知名度をほこる、通称荊棘姫こと、朝比奈咲。
真っ赤に染め上げた髪とツインテールからは、物騒な印象などまるでないが、荊棘姫と付いた名の通り性格はだいぶ尖っている。
入口付近では全身を真っ黒のローブで身を包んだ、不審な輩もいるがここに居るということは参加者なのだろう。
スタジアム中央には、VR機のようなカプセル型の機器がズラリと並んでおりあれを使って何かするのだろう。
それを見つけたミアは、カプセルを指さし、
「響……あれ、入るの……?」
「うーん、どうだろう。多分そうだとは思うんだけど……ん? あれって……」
視界の端で見覚えのある水色の髪を見つけた。
すると、向こうもこちらに気付いたのか微笑んでいる。
「やあ、久方ぶりだな佐藤響」
凛とした佇まいで、しかしどこか柔和な雰囲気。
探索者組合執行部部長、エレナ・スカーレットだ。
「エレナさん! お久しぶりです。エレナさんも出るですね」
「勿論だ。他にも出たがっていた人間はいたが、私が組合代表という形で出場させてもらっている」
組合代表と言うからには、クラッドを含め他の組合員は不参加なのだろう。
しかし、それは理にかなっているのかもしれない。
もし仮に多くの組合員が出場してしまえば、緊急時に対応が遅れてしまう。
通常のギルドならともかく、探索者組合というのは非常に仕事が多いのだ。
2日も停滞してしまったら、遅れを取り戻すのに相当な労力を強いられる事だろう。
「ははは、組合も大変ですね……」
「そうでもないさ。して佐藤響、後ろの麗しい少女を紹介しては貰えないだろうか?」
ミアはエレナが向かってきた時から子供のように、響の後ろに隠れていた。
「ミア、自己紹介くらい出来るだろ?」
「ミア……です……響は、あげない……!」
むふーと興奮気味に威嚇したミアだが、小動物のようで本人の意図する行為とはかけ離れた効果になりそうだ。
「か、かわいいな……! 何だこの生き物は! どうだろうか、私の所へ……」
はぁはぁと息を荒くしてミアに迫るエレナは完全に不審者のソレだ。
また見てはいけない一面を見てしまったと思いながら、響は二人の間に入った。
「いや何いってんですかエレナさん!」
その言葉ではっと我に返ったのか、気まずそうな顔をして冷や汗をかいている。
「い、今のは違う! 断じて、そう、不純などうきなどではないっ! ただ、あまりにも、その可愛らしいので……」
「不純だったんですね」
そんなしょうもないやり取りをしているその時、
『 あー……時間だ。決闘大会予選を始めるぞ。長々と喋るつもりはねぇからよく聞けよ』
会場のモニターに翼が映し出され、だるそうに開会を宣言した。
もっとこう、主催者の挨拶とかないのだろうかと、きっと多くの探索者が思ったに違いない。
『まず、予選はそこのカプセルにはいって、疑似ダンジョンをクリアしろ。フルダイブみたいなもんで、怪我もしねぇし死ぬ事もねぇ。お前らが事前に提出した情報をもとに、アバターは作ってある。まあ、基本的に自分の身体と変わらねぇな』
「へー、ゲームみたいな感じなんだな」
『 ダンジョンは今から10分後に解放されるから、それまでにはカプセルに入っとけよ。……あー、後あれだ。金と、地位と名誉が欲しいなら死ぬ気で挑め。優勝者には俺との決闘権をやろう。俺の事ぶっ飛ばすチャンスだぜ? んじゃ、お前らの健闘を祈る』
その言葉を最後にブツっとモニターが暗転した。
あまりの突然の開会に参加者は静まり返っている。
しかし、数秒後一斉に雄叫びを上げ大いに盛り上がりを見せていた。
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