83話 身の丈にあった武器②
「お疲れ。どうだ? はじめてのAランクボスは」
翼はニヤついた顔で、響が悶々としているのをわかった上で聞いた。
隣にいるクラッドは、性格悪いなこの人、といった風に翼を見ていた。
「何とか倒しましたけど、この武器のおかげですよ。それと、アレは手負いでしたから……じゃなかったらこんな簡単に倒せないですって。それにしても、コレまじで凄いですね」
鬼哭を手に取り改めてその性能に感心する。
翼は長剣の類は使わない。短剣の、それも二刀流なので鬼哭を持て余していたのだ。
響はもしかしたら鬼哭レベルの武器はまだわんさかあるのではないだろうかと、密かに疑問を浮かべていた。
「確かにソイツは中々いい性能だが、お前の能力ならそれくらいは持ってるのが普通だぞ」
「てか響君、元々使ってた刀はいつから使ってるんすか?」
クラッドの問に、白光を買った時の事を思い返す。
フラクタスよりも、ミアと会うよりももっと前だ。
「確か、はじめて副会長と会った時……いや、それより後……あ、報奨金貰った時です」
「えっと、Dランクダンジョンに荷物持ちで行ったって話の? それからずっと使ってるんすか……」
クラッドは呆れた顔でそう言った。
期間で言えば寧ろ白光は短い方だ。
だが、響の急成長の度合いを考慮すると必然的に短くもなってしまう。
そもそも響はその辺の知識に疎いので、二人に言われなければこの先も白光さんが壊れるまで使っていただろう。
「おいおい、まじかお前。よくそれで今まで生き残れたな」
クラッドに続き翼までも呆れたように言った。
「ははは……いやあ、なんかタイミングがなくて」
頭をポリポリと掻いて気まずそうに笑った。
どうやら事の重大さを感じ取り始めたようだ。
「まあいい。ソレはやるから上手く使えよ? んじゃ俺は行くが、さっきの事決まったらここに連絡してくれ」
翼は名刺を取り出すとそれを響に渡した。
S級探索者 馬渕翼と連絡先だけが載っているシンプルなものだった。
「わかりました。コレ、ありがとうございます。遠慮なく使わせてもらいますね」
「ああ、そうしてくれ。俺には必要ないからな。クラッド、送ってやれよ?」
「勿論っすよ! じゃあ俺達は魔石取ってから帰るんで、また連絡するっすよクロードさん」
────
──
─
「それじゃあまた! 響君、大会応援してるっすよー!」
黒塗りの車の中から、クラッドは笑顔で手を振っている。
響とクラッドはなんだかんだ少しは打ち解けて来たのではないだろうか。
「はい! 送って下さりありがとうございました!」
響も手を振り返すと、低いエンジン音を響かせ車は夜の街へと消えていった。
ぐぐっと伸びをすると、疲れが溜まっているのか思いのほか気持ちが良かった。
「思ったよりも遅くなっちゃったな。ミア怒ってるかな?」
時刻は21時。
早いとは言えないが、遅いと言うにも微妙な時間帯だ。
少しドキドキしながらドアを開けると、
「あ……おかえり……」
丁度どこかへ向かうミアと鉢合わせた。
だるだるの部屋着から察するに、コンビニかそこらだろう。
「ただいまミア。遅くなってごめん」
「ん……大、丈夫。お疲れ……」
ぼふっと抱きつき手を回すミア。
──可愛いなちくしょう! 佐藤響、今幸せです。
堪らず顔がニヤける響。
初めてミアが家に来た時から、二人は同棲を開始した。
正式に付き合っているか、と言われればどちらもその言葉を口にしていないが、意識的には二人とも同じなはずだ。
ふと、響は何か閃いたように目を見開き、
「ミア、明日買い物でも行かないか? 実は今日さ──」
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