103話 Aブロックが羨ましい①
エレナは次の試合も問題なく勝ち進み、三回戦へと駒を進めた。
二回戦が全て終わり、現状残っている選手は八名。
三回戦はブロックの準決勝であり、残っている選手はこの時点でもかなり知名度が上がっている。
ここまでくると、優勝も頭をチラつきはじめ、いよいよ現実的な話になって来ている。
そして既に始まっている三回戦一試合目は終盤でそろそろ決着が着く頃だ。
響とエレナは二試合目となり、アルベルトは多少手こずりはしたものの今しがた勝利を決めた所だ。
つまり、次の試合にエレナが勝つとAブロック決勝戦ではアルベルトと戦うことになる。
予想通りと言えば予想通りではあるが、そうなった場合どちらが勝つのかはまるで想像がつかない。
隣にいるエレナも、次の対戦相手のことよりアルベルト戦の事を考えているのか難しい顔をしている。
モニターに映るBブロックの選手はゴリゴリの戦士タイプと魔法使いタイプに別れており、見ていてどちらも勉強になるほど高度な戦いを繰り広げていた。
少しの間拮抗を保っていた両者だが、徐々に戦士の方が押し始め、そのまま勢いにのって決着がついた。
「あ、終わりましたよ。戦士の方が勝ったみたいですね。次は俺達の番ですね」
と、話しかけてみても心ここに在らずと言った様子で反応がない。それどころか、顔に血の気が無いようにも見える。
「エレナさん?」
「……あ、ああすまない。考え事をしていた。次が私達か」
顔を覗き込むとやっとこちらに気付いたのか、慌てて席を立ち上がった。
「あの、体調でも悪いんですか? あんまり顔色が良くないように見えますけど」
「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ。それより待たせると悪い、会場へ向かおう」
「……?」
急かすようなその態度に違和感を覚えたものの、本人が問題ないと言うのならそうなのだろうと、それ以上詮索する事はやめて、足早に会場へと向かった。
『さあ三回戦、二試合目!まずは Aブロック! ここまで圧倒的な強さを見せつけてきた舞姫、エレナ・スカーレットォォォッ! そして迎え撃つはなんとB級探索者でありながら、次々とA級探索者を倒してきた格上殺しのこの人! 可愛い少女と侮ることなかれ! フィオナだァァァ! 美人と美少女の戦い、野郎ども目を離すなよ! 俺は離さない!』
すると、観客席からは今までにないほど、野太い大歓声が上がった。完全に男だけのそれだ。
エレナは相変わらず集中出来ていないのか俯いていて、どうにも彼女らしくない。
フィオナと呼ばれた少女は、確かに美少女と言うにふさわしい容姿の持ち主だった。
小さく華奢な体つきと、人懐っこい大きな瞳。
黒髪をツインテールに纏め、アイドルのようなフリフリの服を着ている。
と、言うのもどうやら彼女は本物のアイドルらしい。メジャーデビューこそしていないが、この大会で知名度を上げてメジャーデビューを企んでいるとかいないとか。
とにかく、エレナもフィオナも優れた容姿の持ち主であり、男共が熱狂するのも頷ける。
「あ、あの! エレナさん、よろしくお願いしますね! いい試合をしましょう!」
「あ、ああ。そうだな。よろしく頼む」
反対側にいるエレナに微笑みながら言ったフィオナだが、肝心のエレナの反応は釈然としないものとなった。
『続いてBブロック! 筋肉があれば大体解決! 魔法? そんなものより筋肉だ! 力こそパワーのオカマ道! 大道寺道山んん! そんな筋肉オカマを迎え撃つのはこの男! ミスタージャイアントキリング、我らが主人公! 佐藤響ィィ!! 今回も熱いバトルを魅せてくれよ!』
「あらぁん? 失礼な紹介じゃないの! そ、れ、に……あたしの事はアンジェリカって呼びなさいよ!」
念の為、説明しておくがアンジェリカではなく大道寺道山である。断じてアンジェリカではない。
──……オカマ?
真っ白な肌と異常なまでに肥大化した筋肉。メイクをしてはいるが、ゴツすぎる顔立ちとメイクでは隠しきれない青髭と更には、鼻の下の左右に丸まった髭があった。それに加えオカマ属性持ちとはなんともキャラが濃ゆい。
アルフレッドも中々鍛えていたが、大きさで言えば圧倒的に大道寺の方が上だ。
先程のモニターでも映っていたが、筋肉の鎧のせいか魔法もあまりダメージがあるようには見えなかった。
明らかに接近戦を得意としており、ここまで残っている事からあの肥大した筋肉が見てくれだけのものではないのは分かっている。
「俺、オカマと戦うのか……?」
と半ば呆れていると、こちらを見て爽やかに笑っているスタークと目が合った。
するとおもむろに服を脱ぎ出して熱烈な投げキッス。
ふわりと飛んできた歪なハートを避けると、全身の毛が逆立つのを感じた。
見事な肉体美ではあるが、今からコレと戦うと思うとゲンナリした気分になる。
「んほっ、いい男じゃなぁい!? あーた、試合が終わったら……んふ、もう! 何言わせる気よぉ!」
「……」
自身の発言に照れているのか顔を赤くして、くねくねと悶えるオカマがそこにはいた。
色んな意味で他の選手のは毛色が違う。
『さあ準備はいいか!? ABブロック準決勝開始だァァァァ!』
ああ、Aブロックが羨ましいなと思っていると、無情にもオカマと相見える合図のゴングが鳴り響いた。
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