104話 Aブロックが羨ましい②
人生初のとなるオカマとの戦闘は予想外の展開から始まった。
あれだけ無駄口を叩いていた大道寺は、ゴングがなった瞬間に猛烈な勢いで距離を詰めてきた。
「愛の鉄拳よォ!」
「ぐ、重ッ──」
完全に虚をつかれた響は回避が遅れ、咄嗟に腕をクロスして飛んでくる拳を防いだ。
が、防御した腕が急所にでもなったような感覚。
圧倒的な破壊力の拳は、人一人を吹っ飛ばす事など造作もなかった。
後方に吹っ飛び、尻もちを着くがそれでも勢いは止まらずゴロゴロと転がる。
──なんて馬鹿力だ!? こんなの何発もくらってられないぞ!
体勢を整え追撃に備えた響だったが、その行動は意味をなさなかった。
追撃する絶好のチャンスだと言うのに、大道寺はその場から一歩も動かずに仁王立ちしてこちらを睨みつけている。
「オカマなめんじゃねぇよッッッッッ!」
そして一喝。
先程まで愛の鉄拳だの何だのホザいていた大道寺だが、明らかに油断していた響が気に食わないようだ。
「え……」
その変わりようについていけない響はキョトンとした顔で突っ立っている。
「あーた、あたしがオカマだからって油断したわね? 今この試合はブロックの準決勝よ? まさか、オカマだから弱いとでも思ったのかしら。馬鹿にするんじゃねぇよ! こちとら全力でオカマしてんだ、弱いわけねぇだろうが」
全力でオカマしていると言うのはいまいち意味がわからないが、大道寺の言わんとする事はわかった。
確かに彼の言う通り、ブロックの準決勝のステージに立つ相手が弱い訳がないのだ。
見た目に惑わされ油断するなど、相手にとって……もとい、オカマにとって失礼なのである。
「そう……ですね。すみません、俺が悪かったです」
素直に自身の非を認め、鬼哭を構える。
先程までの響とは違い、真剣な顔付きで相手を睨む響がいた。そこには油断など微塵もなかった。
「ふふ、いい顔になったじゃない。怒鳴ったりしてごめんなさいね。それじゃあ……存分に愛し合いましょ♡」
どうにもやりにくい相手だが、先程の一撃で目が覚めた。
恐らく、力もスピードも剛力よりも上だ。
魔法を使うのかどうかは分からないが、既に良いのを一発貰ってる分、あらゆる可能性を考える必要がある。
「それはちょっと……でも、今度はこっちから行きますよッ!」
即座に距離を詰め、右腕をで鬼哭を横薙ぎに振るう。
しかし、大道寺はそれを見切っていたのかギリギリで左へと躱し、即座に懐に入り込んだ。
「ボディががら空き──」
「残念、そうでもないんですよ」
響は敢えて大きな隙を作ったのだ。
徒手格闘を得意とし、スピードのある大道寺ならば必ず懐に入り込むと読んでいたのだ。
脇腹から覗かせた左手は大道寺の眼前にあり──
「──迅雷」
容赦のない雷光が顔面を襲う。
ほぼ零距離射撃となったそれは不可避の一撃であり、まともにくらった大道寺は後方に吹っ飛ばされた。
「ぬゥゥゥッ! 」
野太い唸り声を上げながら立ち上がり、少なくないダメージを負ったはずの大道寺はニヤリと笑った。
「ふぅん……? これでおあいこって訳ね。中々粋な事してくれるじゃないの。うふふ、そういう男、す、き、よ♡」
先程追撃をせずに喝をいれた大道寺と同じように、響もまた絶好のチャンスを手放した。
このまま勝負を続けるのはフェアじゃないと、そう思ったからだ。
「……」
──いや駄目だ。惑わされるな俺! あれは物の怪……そう、物の怪だ! 精神攻撃を仕掛けてくる物の怪なんだ!
全身の毛穴が開き拒絶反応を起こしているが、逃げるという選択肢をとる訳にもいかない。
無理矢理物の怪の類にカテゴライズし、気を引きしめる。
「中々いいの貰っちゃったわ。ん〜……でもこの腕輪、耐久値低すぎるのよねぇ。あたし達レベルだとそうね、あと三……二発位が限界でしょうね」
コンコンと腕輪を小突き残念そうな表情。
とはいえそれは仕方ない事だ。ハイレベルの探索者の攻撃をそう何度も耐えれる代物はそう簡単に作れるものではない。
しかしながらこの低い耐久力も中々現実味があるのだ。
例えば響の鬼哭で斬られたとしよう。言わずもがな刀剣類は殺傷能力が高く、一度で致命傷となるケースも少なくない。
それは大道寺やのような鍛え抜かれた肉体からなる一撃も同じだ。
それを踏まえると、数度耐えるというのはやはり適切な回数なのかもしれない。
「一つ提案があるの。お互い全力の一撃で勝負を決めるのはどうかしら? 探り合いで決着って言うのは華がないわ。他の選手ならそれでもいいけど、あたし、あーたが気に入ったわ 」
思いもよらぬ提案に、黎明之刻が頭を過ぎるがさすがにそれは危険すぎる。
それ以外に超高火力の技がない響は少し不利かもしれないが、それでも響は笑ってみせた。
「面白いですね……! 丁度新技試したかったんですよ」
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