第14話 レベルアップしました①


我妻の意識は完全にブラックサーペントに向いた。

B級と言えど、ボスの不意打ちに対処するのは容易ではないはず。

武田はすかさず剣の切っ先を向け、


「覚えたばかりだが、ケチらずにお披露目してやる」


そう言った直後、切っ先から放たれたのは直径30センチはあろうかと言う火の球。

近距離からの魔法攻撃と、ブラックサーペントの突進。両方を対処するのは至難の業。


「たかたが火の球程度……ッ!」


我妻はサマーソルトてブラックサーペントの下顎を蹴り上げ、同時に短剣で魔法を斬り裂く。

が、それがマズかった。短剣に触れた火の球は小規模ながら爆発を起こした。


「ああすまん。言い忘れてたがそれは爆発するんだ」


跳躍していた事もあり、踏ん張りなど効くはずもない。

炎と衝撃に耐えきれず我妻は吹っ飛ばされた。


「ぐはぁッ! ……C級如きが調子に乗りやがってえええええッ!!!!!」


頭に血が上った我妻は、先程の響の忠告も忘れ、再び武田目掛けて距離を詰める。

が、ブラックサーペントの標的になっただけであり、極太の尻尾による薙ぎ払いをモロに受けてしまう。


「ぐうっ……ああくそ! 鬱陶しいッ! まずは蛇から片付けてやる!」


怒りで血走った眼をブラックサーペントに向け駆け出した。


「よしいいぞ、これで勝機が見えてきた。あとは……」

──アイツの弱点さえ見れれば……!

【B級覚醒者 我妻良樹Lv25】

・元探索者組合執行部。 快楽殺人者。

・弱点 頭部 心臓 右脚

・特性 気が短く感情的になりやすい。またスキル 暗殺を使い姿を消す時は、背後からの奇襲が多い。右脚に古傷がある。


目目連により可視化情報はとんでもないものだった。

まず執行部と言うのも現在の話ではない。名刺は当時の物を使用し、書類などは同じ形式の物を独自に用意したのだろう。


そして弱点は人間なら当たり前の部位の他にもう一つ。

右脚に古傷。こんなものは目目連がない限り判明しなかったに違いない。

暗殺による奇襲も背後と分かれば充分にカウンターを決められる。それも右脚を狙って、だ。


──これなら俺でも戦えそうだ。けど、俺のステータスじゃ攻撃しても何ともないだろうな……武田さんに伝えるのもいいけど、出来れば温存しておきたい。


「この短時間でどうすればアイツに通用する!? どうすれば強くなれる! こんな事ならもっと鍛えておけば──え?」


【ブラックサーペントの討伐するとレベルが上昇します。それに伴いスキルを会得する可能性もあり】

【また、ブラックサーペントの卵を割ると幼体が誕生します。幼体は戦闘能力がありません】


──こんな事まで……教えてくれるのか? 目目連って一体……いや、それより今は卵の方だ! ブラックサーペント今の俺に倒せるわけない。少しでもレベルを上げないと!


響はキョロキョロと辺りを見渡した。

するとなにやら奥の方に白い球体があるのを発見。


「本当に卵がある。こんなの皆知らないだろうな。でも……」


チラリと横を見る。

そこでは我妻とブラックサーペントが激しい攻防が繰り広げられている。我妻の方が押しているが、ブラックサーペントもなんとかそれに食いついている。

武田は隅の方に避難して、ポーションを飲んで次に備えている。


「行くしかない! この程度で逃げてたら一生強くなんてなれないんだ!」


意を決して飛び出した。


──卵まで20メートル! 大した距離じゃない。それに、脚の速さは自信がある!


ブラックサーペントの特性が気になったが、交戦中という事もありこちらに意識が向くことは無かった。

無事卵の元へ辿り着いた響は剣を取り出す。

思っていたよりもサイズが大きく1メートルはありそうだ。


「でっけえ卵だな……全部で10個か。思ったより多いけど……それって経験値も多いって事だろ!? 」


それなら、と剣を突き立てる。

パキッと乾いた音が響き殻が割れる。


すると、中にはブラックサーペントの幼体がくねくねと動いている。


【ブラックサーペント幼体Lv1】

・弱点 全身

・特性 未熟児なため放っておいても死んでしまう。


「う、なんか悪いことしてる気分だな。でもこんな所で死ぬわけにはいかないんだ! 悪く思うなよ」


くねくねと動く幼体に響は剣を突き立てる。

思ったよりも血は出なかった。幼体はビクビクと痙攣し、そのまま力尽きた。

1匹殺してみたがあまり強くなった実感はない。

一瞬、不安がよぎる。


──本当にこれでいいのか? レベルアップとかの告知もしてくれれば……


【レベルアップしました】


「いや便利だな!? なんでもありかっ」


響の思考に即座に反応する目目連は至って優秀。

その後も響は卵を割り、幼体を殺し続けた。


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