92話 憤怒のジャック・オー・ランタン③


腕輪、勲章とここまで順調に破壊する事が出来た。

最初の魂狩りを除けば大きなダメージはなく、かすり傷がほとんどだ。


しかし、響はある事を懸念していた。


──ナイトメアを使わないのはなんでだ。それとも、使えないのか……? 重力魔法と違って前兆が一切ないから使われる前に倒せたらそれが一番いいんだけど……


大鎌の一撃をバックステップで回避し、一度体勢を整える。


・なんかエレナたんもうクリアしたらしい! ダンジョンは別物だけど

・はやwwww主人公さんまだ戦ってるのにww


視聴者の情報からエレナがダンジョンをクリアした事を知ると、心に焦りが出てきた。

無論、早ければいいと言う事でもないのだが本戦に進めるのはたったの三人だ、焦りもするだろう。


しかし、部位破壊もあと一つ残っているし、目の前のジャックはそう簡単に倒せるような相手ではない。


「あの冠さえ壊せれば後は……いや、まてよ?」

──部位破壊後には少なからず隙はあったよな。防御力が下がるのは破壊された直後なのか? もしそうなら、もう冠の破壊だけに拘らなくてもいいのかもしれないぞ!?


何か閃いたのか意味深にニヤリと笑い双剣を構える。対するジャックは自身の最大の弱点を狙われている事に気付き、狂ったように大鎌を振り回し距離を詰めてくる。


──纏を使えばアイツは俺の速度についてこれない。仮にさっきの考えが正しければ、今の状況って割とヌルゲーなんじゃ……?


無駄のない動きで大鎌を回避し、氷と炎の嵐を迅雷で相殺しつつ剣戟を浴びせる。

響も身体の至る所に切り傷や火傷、凍傷が目立ち始めた頃あることに気付いた。


──攻撃が何種類かのパターンに分かれてる……? このまま地道に攻めてもいいけど、それだと時間がかかり過ぎるし一気に決めてやる!


何十、何百と打ち合う中でジャックの攻撃は規則性があるのを発見した。

純粋なモンスターではなく、プログラムゆえの新たな弱点だ。


大鎌を弾き返し大きく距離を取り、


黎明之刻デサフィアンテ、これで決める……!」


双剣を金色の光が包み込む。

最も強く、最も派手な技だ。視聴者ポイントの獲得を考えると、やはりそれなりの演出は必要だ。

本当はあまり見せたくはないが、隠して脱落してしまったのでは元も子もない。


それに、黎明之刻はいくらでも応用がきくし、他の探索者に知られた所で対処できる代物でもない。


・なんだなんだ、必殺技か!?

・なんか主人公っぽいwwwww

・このギリギリな感じでの必殺技とか漫画かよ。好き

・エターナルフォースブリザードォォォォ!!


目論見通り視聴者は反応し、最終局面にふさわしい盛り上がりを見せている。

まだジャックを倒していないというのに、ピコンピコンとポイントの通知音がどんどん増えていく。


ジャックは輝く双剣を見てなにかを察知したのか、大きく鎌を引いた。魂狩りの構えだ。

互いにこの一撃で終わらせるつもりなのか、ピタリと止まり睨み合う。


微かに空気が揺れた。


「二度も同じ手をくらうかよッ」


重力魔法からの魂狩りだ。

響は即座に地を蹴りジャックへの距離を詰める。その途中で纏を発動。


後ろでは床が軋む音が聞こえた。


左右ジグザグに動き、跳躍し狙うは頭部の冠。


「砕け散れぇぇぇッ!」


ジャックはまるで反応が追いつかず、気が付いた時には響の双剣が冠に触れていた。

思い切り双剣を叩きつけた響だが、直後に視界が揺らぐ。


「──ぐぅぅ!」


ここに来てジャックはナイトメアを発動した。

頭が割れそうな程の激痛が走る。

しかしそれでも両腕の力は抜かない。


パキ、と冠が破壊された音が鼓膜を揺らした瞬間、


──今だッ!

「飛燕!!!!」


短剣と疾風剣の両方から青白い斬撃が放たれ、防御力の激減したジャックの頭部を大きく斬り裂いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る