91話 憤怒のジャック・オー・ランタン
血を払ったジャックは、直ぐに右側に視線をやった。
そこには腹部に大きな火傷と肩に切り傷を残した響の姿。
肩の傷はそう深くはないものの、浅いかと言われればそうでもない。
それよりもダメージが大きいのは腹部の火傷だ。
腰から胸に掛けて皮膚は爛れ、端の方の皮膚は炭化している。
──今、死んでた……! 50パーセントで、死んでたのか俺は……!?
実際、ジャックの魂狩りは大鎌による負傷の度合いは関係ない。ほんの1ミリでもカスってしまえば、あとは神のみぞ知る所。
今回たまたま生存の50パーセントを引いたが、単純な確率で言えば次はない。
脂汗が額に浮かび、生への安心からか鼓動は高鳴っている。
フーフーと荒い呼吸を整え、決してジャックから目を逸らす事なく先程ランダムボックスで手に入れたポーションをゴクゴクと飲み干した。
・生きてたあああ! もうダメかと思った
・ほ、ほらみろ。俺は大丈夫って言ったんだ……!
・絶対いってない側だろww
・でもどうやって逃げたんだ? なんかわからんが潰されて動けないように見えたけど
ライブで見ていた視聴者は、いやもしかしてらジャックですら見落としていた可能性がある。
あの時、重力魔法によって身体の自由が奪われていた響は大鎌が当たる直前に一か八かの賭けに出た。
ジャイアントキリングが効果を発揮し魔法の威力も増加している中、自分の腹に向けてフルパワーで迅雷を放ったのだ。
半強制的に響は迅雷により吹っ飛ばされ尋常ではない痛みと、深刻なダメージを受けたがそれでも大鎌の直撃と比べれば可愛いものだろう。
もしもあの時、ジャックの一撃をその身に受けていたならそれは確実に致命傷だった訳で、ポーション一つでどうにかなるとは思えない。
「よし、痛みもだいぶマシになった。これなら……」
──でも、スキルの使い方が今までのどのモンスターよりも上手いな。知能が高いせいか? 剛力よりも手強そうだ。
そんなことを考えているとふと、微かに空気が揺れた気がした。
嫌な予感がし横っ飛びでその場を離れる。
すると一瞬前に響がいた場所の床は軋み、ひび割れていた。恐らくは重力魔法が発動されたのだろう。
通常の属性魔法と違い目に見えないというのは非常に厄介だ。
──遠中距離は分が悪いな。接近戦で叩き込むしかない!
ばっと、地を蹴りつけ開いていたジャックとの距離を一気に詰める。
それを見越してか前方から氷柱の弾幕が迫る。
「こんなものッ」
頭部に向かう氷柱を左の短剣で破壊し、続く氷柱は疾風剣で叩き落とした。
そのまま旋回し、次々と襲い来る氷柱を破壊していく様はまるで舞踊でも見ているようだった。
・すげえええ! 芸術点10p贈呈!
・この人双剣つかえんのかwwwなんでもありやな
・氷が砕けていい感じにエモくなってるな
と、コメ欄も絶賛の嵐だがそんな事を気にしている余裕はない。
最後の氷柱を真っ二つに斬り落とすと、既にジャックとの距離は2メートルをきっている。
重力魔法の微かな気配を感じ、即座に迅雷・纏を発動させ瞬時に速度を上げる。
まさかここに来て爆発的な速度を発揮するとは思わなかったジャックは反応が遅れてしまう。
「お返しだ!」
目線は頭部。ジャックは必死に腕を上げるが、それはフェイク。腕を上げさせるのが目的だった。
三つの中で一番狙いが定まらない腕輪、響はまずそこから破壊することにした。
一刀目の短剣は命中したが、キンという高い音を立ててかすり傷を付けるだけに終わった。
──思ったより硬い!? それなら!
続く二刀目、疾風剣を突き刺すように繰り出し切っ先が腕輪に直撃し、微かにヒビを入れる。
「飛燕ッ!」
その刹那、飛燕の零距離射撃。
切っ先から放たれた斬撃はヒビ割れた箇所を襲い、パキンと金属の砕けるような音を響かせた。
腕輪が破壊されるとジャック本体にもダメージがあるのか、大きく仰け反りよろめいた。
が、響は追撃の手をピタリと止めた。
「その手には乗らねぇぞ」
よろめいて上手く隠してはいるが、ジャックの背後には赤色の魔法陣が展開され、その光が微かに漏れていたのを響は見逃さなかった。
もし仮に、魔法陣に気付かずに追撃をしていたのなら手痛いカウンターをくらっていた事だろう。
知能の高さを先程身をもって実感していた響は、ジャックの大きすぎる隙を警戒しよく観察していたのだ。
・ふ、俺なら見逃しちゃうね
・反撃開始だ! ガンガンいこうぜ!
・でもなんで腕輪? 頭ぶっ刺せばよかったのに
・なんか考えがあるんだろ。それか、かぼキング先輩の知識があるのか
ジャックはバク宙をし、開き直ったのかそのまま魔法陣から燃え盛る炎の蛇を放った。
不規則にうねる蛇はその口を開け、響を丸呑みにしようとするが、
「迅雷!」
響はそこに雷撃を放つと小規模ながら爆発を起こし両雄の視界を爆煙が遮る。
しかし、雷撃を放つと同時に自らに雷を纏わせていた響は、既にジャックの背後へと回っていた。
ジャックも大鎌を短く持ち旋回し、即座に斬り掛かる。双方の刃がぶつかり合い激しく火花を散らし、金属音が響いた。
──このまま手数で押し切ってやる!
そこから響は上下左右あらゆる方向から斬撃を繰り出すと、徐々にジャックの身体にはかすり傷が増えていく。
どうやら遠中距離ではジャックに分があるが、近距離戦となら響に軍杯が上がるらしい。
「らあああぁぁぁ──ッ!!」
雄叫びを上げここぞとばかりに猛攻を浴びせる。
飛燕と迅雷を織り交ぜ、更には双剣よる乱舞。
ジャックも氷や火魔法、重力魔法で応戦してはいるが魔法陣を展開する度、迅雷・纏により超速で背後に回るため、一向に当たる気配がない。
大鎌はリーチと破壊力に長けているが、細々とした動きは得意ではない。それでもジャックは上手く凌いでいる方だった。
──まだだ! 限界まで……もっと速く!
次第に金属音が響く数は減り、その代わりに布と肉を裂く音が増えてきた。
「ここだああぁぁッ!」
短剣の突きを大鎌が弾くと、ゼロコンマ1秒にも満たない僅かな隙が生まれる。
響はそれを逃すことなく、疾風剣で飛燕を放つと斬撃は勲章へと直撃。
そして勲章は音を立てて破壊された。
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