第9話 いざ、ダンジョンへ!①


「はぁ……はぁ……俺とした事がうっかりしてた。せっかく隠してたのに危うく自爆する所だった!」


街中を走り抜け自室に戻った響は、荒くなった呼吸を落ち着かせていた。

それにしても変なスキルだな、と思った。


「可視化がどうのって言ってたのは、本来見ることの出来ないものを見れるって事なのか?」


そこで、何か思い付いたのか響はゴクリと生唾を飲み込む。


──もしかすると一々組合に行かなくても、自分のステータスも見れるんじゃないか?


ステータスとは覚醒者の能力を数値化したもの。

基本的に閲覧するには組合に行って特殊な機械を使用する必要がある。

それに、使用料も1万円と中々いい値段がする。中級以上の探索者からしたらはした金だが、響のような低ランク探索者からしたら痛い出費だ。


「お、俺のステータスがみたい」


すると響の声に反応し、文字が空中に浮かび上がってきた。


──やっぱり……もしかすると、目目連って凄い便利なスキルなんじゃ?


【ステータス】


F級覚醒者 佐藤響 Lv2

HP:10 MP:5


力2

防御力2

知能3

速度2

精神力10


スキル

・不屈の精神Lv2

・目目連Lv1


──うーん、それにしても情けないステータスだなあ。去年見た時と大して変わってないじゃないか。


表示されたのは響のステータス。未覚醒者の平均が2だとすると、響のそれは覚醒者と呼ぶにはあまりに頼りない数値。

覚醒者の初期数値はF級だったとしても平均は10。最早本当に覚醒しているのか不思議になるレベルだ。


なんかゲームみたいだなと思いながら見ていると、目目連の他にもスキルがある事に気がついた。


「不屈の精神ってなんだ? これのおかげで精神力だけ他より高いのか?」


【スキル 不屈の精神】

・何事にも屈しない極めて強い精神の持ち主。特定の状態異常効果を緩和します。このスキルは常時発動しています。


──おお、凄いわけじゃないけど何かの役には立ちそうだ!


F級覚醒者の響は探索者としてこの2年間過ごしてきた。何度も心が折れかけたが、その度に翼の言葉が蘇った。


『お前、才能あるぞ』


どんなに辛い時も苦しい時もその言葉を思い出し、踏ん張ってきた響に相応しいスキルである。

世界一に認められた。そう思えばそこら辺の探索者に馬鹿にされようがなんとも思わなかった。


「ってか便利だな目目連! 人に使えるならモンスターにも使えたりして……やべ、なんか楽しくなってきた!! 何処かメンバー募集してる所あるかな?」


時刻はまだ13時。これから攻略に向かう探索者も珍しくはない。

響はスマホを取りだし急いで探索者サイトを開き、E級ダンジョンを検索する。


「うわあ……Eランクの募集ねぇじゃん。仕方ない、あんまり行きたくないけどDランクの荷物持ちなら……」


近場のEランクダンジョンはメンバー募集を締め切っていた。

それなら、とDランクダンジョンのメンバー募集を検索。

DランクダンジョンはEランクと比較すると難易度は上がるが、それでも低ランクダンジョンだ。滅多な事で死者は出ない。


それに荷物持ちなら闘う必要も無いので、危険は更に低い。


「お、あった! 丁度荷物持ちを募集してるじゃん。ラッキーラッキー。ん? しかも報酬が5万って……俺氏超絶運がいいのでは!?」


間抜け面でスマホを操作し、参加希望を押した。

すると、F級にも関わらずすぐに承認された。


ダンジョンランクと覚醒者ランクは、攻略基準において比例している。

Eランクダンジョンなら5名以上のE級覚醒者がいれば危険は少ない。Sランクダンジョン以外は基本的に皆同じ基準だ。


だから本来、F級覚醒者は何処のダンジョンもお呼びじゃないのだ。


今回はDランクダンジョンだが、それでもこうもすんなり行くことは極めて稀。新たなスキルに浮かれ、大事な事はそっちのけの響。疑問に思うこともないのだろう。


「集合時間は……あと30分か。家から15分くらいだし充分間に合うな」

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