69話 対決!氷鬼ギルド②


ぼんやりと淡い青色の光が響を包み込む。

ジャイアンキリングが発動したのだ。

だが20%のステータス上昇があったとしても、まだまだ剛力の方がステータス値は高い。


それに、1体1の決闘という訳でもないのだ。

響が圧倒的に不利な状況なのは変わりない。


「響……だめ。……逃げよう」


ミアの提案は最もだ。

この戦力差ではさすがにどうしようもないと、理解している。


「逃げるってのはそのゲートを潜るってことか? 残念だったァ。外にも仲間を待機させてるに決まってんだろ? くはははは! てめぇらに逃げ場なんてねぇんだよ」


歪んだ顔で笑う剛力。

格下の2人を相手にやり過ぎだとも思うが、組合に話が漏れればギルドの存続は不可能。


それどころか、ギルドの中枢を担っている人間は重罪となり裁きを受けることになる。

それを考えるとこの男の行動は当然なのかもしれない。


──目目連。


【A級覚醒者 剛力隼人Lv63】

・氷鬼ギルド ギルドマスター

・弱点 頭部 心臓部

・特性 気性は荒いが、頭がキレる。刀剣類の扱いに長けており、連続技を得意とする。悪鬼羅刹により暴走状態に入ると、30秒間自我は消えるが力が飛躍的に上昇するので要注意。

・スキル 悪鬼羅刹Lv3 剣術Lv7 見切りLv5 火魔法Lv5


目目連で弱点をさぐってみたものの、急所以外にこれといって弱点はない。

これまでのどの敵よりも剛力は圧倒的に強かった。


──思ったとおりかなり欠点が少ない。けど、弱点特攻さえ発動出来れば勝機はある。あとは、作戦さえ上手く行けば……


響はミアに耳打ちでなにやらその作戦とやらを伝えている。


「それなら……わかった……ミア、頑張る……!」


ミアは一瞬驚いた顔をしたが、その後こくりと頷き了承した。

数でも質でも劣っている2人だが、打開策を見つけたようだ。


「おい剛力、お前らの相手は俺がする。俺が死ぬまでミアには手を出すな」

「くははは! 随分大きく出たな英雄様よォ。いいぜ、そのくだらねぇ企みにのってやらァ」


剛力はたか笑いし、響の挑発にのった。


──よし、とりあえず第一関門は突破した。あとは俺がこの5人相手にどこまで踏ん張れるか……様子見している余裕なんてない。まずは数を減らさないと。


響は白光を構え、ギルド員達に目目連を使用した。


【B級覚醒者 田中光一Lv49】

HP: 2250

MP: 390


力145

防御力130

知能90

速度125

精神力129


──コイツが1番弱いな。


5人の中で最弱だったのは、スキンヘッドの田中だ。


今の響はジャイアンキリングのおかげで平均ステータス値は300近い。

田中が弱いとは言わないが、平均ステータス値が120程度ではどうにもならないだろう。


「いくぞッ」


白光を抜き駆け出した。

田中はまるで反応出来ていない。


響の動きを捉えているのは剛力ともう1人くらいか。

だがその2人もまるで動く気配がない。


──妙だな……でも好都合だ!


違和感を覚えたものの、乱戦になるよりは遥かにいい。

そう判断した響は、一瞬で田中の背後に周り込む。


「あ──」


響は後頭部に白光の柄を叩き付けた。

ゴン、と鈍い音がなり田中は為す術もなく膝から崩れ落ち意識を失った。



「あの餓鬼……あの時は手を抜いたのか……? いや、そんな感じじゃなかった……」


一連の動きを見て剛力は首を傾げた。

剛力からしたら響の動きはまるで別人のように映っただろう。

注意深く観察してはいるものの、仲間を助ける素振りはない。

2人目、3人目と瞬殺されていても、そのスタンスは変わらないようだ。


ここまで順調のように見えるが、響は内心少し焦り始めていた。


──なんで何もしてこないんだ……


剛力が動く事は響の作戦の必須項目。

1体1に持ち込んだとして、それが無ければ勝ち目は薄いという事なのだろうか。


「──ッぶね!」


焦る響の眼前には風の刃が迫っていた。


間一髪の所で白光で弾くと、後方に逸れた風の刃は大木に被弾し豆腐でも切るかのように切断した。

積もっていた雪が舞い、全員の視界を妨害する。


「チッ! 避けるじゃねぇよ!」


小柄な男は再度杖を振ると、辺りの空気が雪を巻き込みながら杖先に集約していく。


──中々いい仕事してくれるじゃんこいつ!


響はそれを見てニヤリと笑い、サンダーボルトを放ち突進。


「くッ! 死ねッ」


男の魔法はまだ完全ではなかったみたいだが、サンダーボルトを回避出来ないと判断した即座に杖をふった。


雷撃と暴風の塊のような球は衝突すると、轟音を轟かせ周囲を破壊した。

が、これは響の狙い通り。


「ふっ!!」

「はや──」


純正魔法使いの弱点である懐に潜り込み、顎を目掛けて拳を振り上げた。

咄嗟に腕をクロスさせた男だが、


「……サンダーボルト」

「ぐあああッ」


響はアッパーを中断しそのままゼロ距離で雷撃を放った。

避ける事も防ぐ事も出来ない男は、その身を焼かれ痙攣しどさりと崩れ落ちた。


「ふぅ……あとはお前だけだぞ。余裕ぶっこいて見物してんじゃねぇよ」


白光の切っ先を向け、剛力を睨んだ。


「くはははは! どうやったのか知らねぇが、この短期間で随分力をつけたみたいだな。いいぜ、少し遊んでるよ」

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