88話 閉ざされた扉を開けろ①
数ある中で一体だけ玉を乗せた個体。
余程の阿呆でもない限り、それが北の扉を開ける為に必要なものだとわかる。
だというのに、肝心のその個体が隠れられないとはなんとも皮肉なものだ。
ふと、そんなマヌケなランタンと目が合った気がした。
一瞬の硬直したかと思うと、キィィィと叫びだし部屋の中を走り逃げ始めた。
「逃がすかッ」
せっかく溢れた獲物だ。
わざわざ逃すなど愚の骨頂。
響は即座に駆け出し、赤玉を追いかけた。
右へ左へとちょこまか逃げる赤玉。
響は雷撃を放つも床を焦がすだけで中々命中しない。
赤玉は雷撃にびびりながら、近くにあった恐竜のおもちゃの陰に隠れた。
・いやバレとるがなwwwwwwww
・なんで今更隠れられると思ってんだよwww
視聴者の言う通り、響は見失ってもないので勿論バレバレだ。
直ぐに響も恐竜のおもちゃの後ろにまわると、
「キィィィ!」
「おわっ!?」
ランタンか響目掛け飛び出し、手斧を振り下ろした。
ギリギリの所で回避したが髪を斬られた。
あと数センチズレていたら顔面を切り裂かれ、もしかしたら麻痺していたかもしれない。
可愛らしい(?)見た目とマヌケな行動で気が緩んでいたのだ。
短剣に迅雷を纏わせ、すかさず切り上げランタンを撃破するもどうやら赤玉の個体とはまた別らしい。
「あいつ、コレを狙ってたのか? 仕方ない。面倒臭いから全員倒すか……迅雷・纏」
バチバチと身体から雷が迸る。
勿体ぶらずに最初から使えばよかったと若干の後悔と共に、一瞬身体がブレ、直後に響の姿は消えた。
と、思うと次の瞬間には積み木の裏で血飛沫が舞う。
・なんやこれ!画面酔いするからやめてくれ
・おい!何が何だかさっぱりわからんぞ!
・早すぎワロタww吐きそう
視聴者の意見など見もせずに、次々にランタンを倒していく。
幸いな事に迅雷を纏わせた短剣でも弱点特攻が機能しているので、一撃で倒せている。
ボスはどうか分からないが、クリア前提の難易度設定なのかもしれない。
五体、十体と倒していくうちに気付けば残りは赤玉の個体だけになっていた。
それを察した赤玉は逃げ隠れするのをやめ、
「キ、キィィィッ!」
覚悟を決めたのか雄叫びを上げ、無謀にも突撃してきたではないか。
・お、漢だぜ……! お前なら奇跡を起こせる! 自分を信じるんだ!!
・やれやれ……奇跡ってのはな、起こるんじゃあない。いつだってよォ……自分の手で手繰り寄せるものなんだぜぇ───ッ!!
赤玉ランタンの勇姿に感化されたのかいつの間にか視聴者はランタンを応援し始めた。
ザシュッ。
もちろんそんな事など響が気にする訳もなく、手斧を交わし、ランタンの胴体を斬り裂いた。
頭部のかぼちゃと胴が鈍い音をたてて、地面に落ちる。
その衝撃でかぼちゃについていた赤玉がコロコロと転がり、響はそれを拾い上げた。
「ふぅ、これで一つ目ゲットだな」
・かぼちゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
・これは酷いwwwwwww
・なんて事してくれたんだ主人公! 勇気を出したかぼちゃをぶっ殺すなんて……最低だ!!そんな貴方に10pプレゼンツ//
ピコンと軽快な音が鳴ると、ウィンドウの視聴者ポイントが0から10に変わった。
「あ、ポイントありがとうございます。引き続き頑張りますね」
だれに向ける訳でもなくその場で一礼。
それが良かったのか、ここまでの動きが良かったのは分からないが再びコメ欄が盛り上がり始め、うるさいくらいにポイント獲得の音が鳴り響いた。
・こんな強いのに礼儀正しいなんておじさんポイントあげちゃう!
・持ってけ泥棒!!
・まだだ……! この程度でポイントなんかあげられない。だから止まれ、止まってくれ俺の指ッ!!アッー!!
一人がポイントを投げると、それに続くようにどんどん便乗していく。
同接数も今や一万を超えている。
他の探索者達がどれくらいなのか分からないので、なんとも言えないが少なくはないだろう。
そんな中、チャラランとまた別の音が響き、ウィンドウにあるメッセージが浮かんできた。
差出人は案内役のモモとのこと。
「ん? なんだろうこれ」
不思議に思って開いてみると、
500ポイント達成おめでとうございます。
一定のポイントに達しましたので、現在の順位をお知らせします。
神奈川県予選9/108 全国40/3765
尚、この順位は視聴者ポイントでのみ算出された順位です。
クリアタイム、疑似モンスター討伐ポイントは含まれておりませんので、正式な順位ではありません。
──653ポイント貰ってもまだ9位なのか。もう少しペースあげて視聴者さんにもアピールしないと危ないかもしれないな。
中間順位の知らせにより自分の位置がわかった響は、このままでは予選落ちの可能性がある事を踏まえ今後の行動を決めた。
「皆さん沢山の応援ありがとうございます。運営から神奈川で今9位との知らせがありました! ちょっとペース上げて攻略するんで、引き続き応援よろしくお願いします!」
再び一礼し、赤玉をポケットにしまうと最初の部屋に向け走り出した。
・まじか! 1位だれなんだろwww
・あ、さっき俺見てたけどエレナって言うくそ美人探索者だった。確か2000ポイント超えてた気がする。
・レベチで草
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます