73話 主人公


時が止まったように静寂が全てを支配した。

その刹那、劫火ごうかと煌めく光は混じり合い互いを破壊すべく猛威を振るった。


2人を中心に輝く火柱が天への立ち昇る。

一瞬遅れて轟音が大気を揺らす。

爆風はその悉くことごとくを吹き飛ばした。


ふと、ほんの一瞬剛力の力が抜けた気がした。


──今だ!!!

「らああああぁぁぁぁ───ッ!!」


響の叫びに応えるように一層強く輝きが増す。

光は劫火を呑み込み、轟音の中でパキンという何かが折れる音が微かに鼓膜を揺らした。


そして次の瞬間には、飛燕の斬撃は剛力の右肩から左の腰に至るまでを斬り裂いた。


「がはッ……!」


裂けた皮膚から勢いよく血液が噴射し宙を舞った。

肉を斬る確かな感触。


吹き出る血液からは傷が浅くない事が伺える。


致命傷、というのに相応しい傷だ。

膝から崩れ落ち吐血する剛力。


よく見れば剛力の両足首に至るまで凍りついていた。

あの時、一瞬力が抜けたと感じたのはこれのおかげだろう。


とはいえ対する響も無事ではなかった。

右腕は真っ黒に焼け焦げ、もはや痛みすら感じない。

全身の骨が軋み悲鳴を上げている。


そして次に襲いかかるのは、黎明之刻デサフィアンテによる反動である全ステータスの半減だ。

身体が鉛のように重く、倦怠感が身体を支配する。

控えめに言っても満身創痍だった。


「俺の勝──」


言いかけたその時だった。

ゆっくりと、ふらつきながらではあるが剛力が立ち上がったのだ。


「まだ、だ……俺はてめぇには負けてねぇッ……! このクソ共が……」


血反吐を吐きながら1歩ずつ近付いてくる。


A級の意地なのか、それとも自尊心からくる執念なのか。

どちらにせよ、何かが剛力を動かしている事にはかわりない。


「響──」


ミアが剛力にトドメを刺そうと杖を向けたが、響は首を横に振りそれを制止した。


「俺は負けてねぇ……まだ、負けてねぇぞッ!!」


鮮血を散らしながら、血を吐きながら、魂の叫びと共に死力を尽くし折れた刀を振り上げた。


剛力の目はまだ死んではいない。


「悪いな……剛力……」


そう呟くと響は感覚のない腕で力なく白光を振るい、飛燕を発動した。

剛力は青白く細い斬撃を防ぐ事も出来ず、左肩から右の腰にかけ斬り裂いた。


「がふっ……ちく、しょう……が……」


飛燕により斜め十字に切り裂かれ、流血に流血を重ねた。

最後の最後に、響を睨みつけ剛力隼人は大地に体を預けた。


それを見届けた響は緊張の糸が切れたのか、剛力に向かい合う形で倒れた。


「響……!」


──ああ、また泣かせちまった。


霞む視界の中、ミアの泣き顔を最後に視界は暗転した。


────


──



この日、日本中がある話題で持ち切りになった。

それは北海道最大手ギルド、ギルドマスターによる殺人未遂事件。

だがこれだけなら、民衆がそこまで大きく沸くことはなかっただろう。


しかし、報道にはそれを阻止した人物の経歴が上がっていた。

名前については本人の許可がなく報道出来なかったようだが、ゲート付近を撮影中のカメラに搬送されたある探索者の顔が映っていた。


その人物の経歴は、F級探索者であり先日ディザスターゲートを食い止めた英雄である事。

ディザスターゲートの件で既にほとんどのサイトでは佐藤響の名と写真が割れている。


そして映像には、それと同一人物と見られる男が搬送されていたのだ。

いち早く報道したニュースのコメント欄は大いに盛り上がっていた。


”この搬送されてるのって、例のあの人じゃね?”

”言い方草”

”F級でディザスターゲートの時点で確定だろwww”

”F級なのにA級に勝てるのなぁぜなぁぜ??”

”いやほんとにそれ。意味わからんわ。惚れそう”

”……だめ。”

”英雄ってこういう人の事を言うんだろうな”

”氷鬼ギルドに入ろうか迷っていたので、本当に助かりました。佐藤探索者ありがとうございます”

”なんだただの主人公か”

”主人公www”

”もうこの人の2つ名主人公でいいよww”

”主人公よ、次はどんな主人公をしてくれるんだ?”

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