第38話 不運の連結ダンジョン③


投擲された白光は吸血蜘蛛を通り越し、ミアの右腕を拘束する糸を断ち切った。


「……響、今助ける……!」


麻痺はまだ完全に解けてはいない。

だが元々の効果時間が短く、既に多少の時間は経過している。

杖を持ち魔法を発動出来るくらいには回復していた。


響の狙いは吸血蜘蛛ではなく、ミアの救助にあった。

素早い動きをするモンスターだが、氷系統の魔法ならば掠っただけでも機動力を大幅に減少する事が出来る。


今回の相手にミアは相性がいい。そう判断しての事だった。

幸いな事に吸血蜘蛛はミアの拘束の一部が解けた事に気が付いていない。


「ミア! 腹を狙えッ」


迫る吸血蜘蛛を睨みながら、決死の覚悟で弱点を伝える。ここで決められなければ、本当に終わりだ。


「ん……りょーかい」


ミアは杖の先端を向け、2重の魔法陣を展開した。

1つ目の魔法陣からは水流が放たれる。

そしてほんの少しの時間差で、2つ目の魔法陣からは巨大な氷の槍が射出。


水流は氷槍に触れ、その一部となってより一層その大きさを増していく。


吸血蜘蛛はまだソレに気が付いていない。

捕食対象である二人を捕らえた気になっている。


そして拘束された響の顔面に今まさに鎌が振り下ろされようとした、その時。


間一髪、氷槍は吸血蜘蛛の腹部を貫き、その切っ先は顔面をも貫通し響の眼前に至るまでに到達し、ピタリと止まった。


「お、俺まで死ぬとこだった……」


危うく二つの意味で響の心臓は止まるところだった。

目の前の吸血蜘蛛はピクピクと痙攣を続け、やがてそれすらも出来なくなり絶命した。


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】


さすがCランクダンジョンと言ったところか。

先程の吸血蜘蛛は、ボスでもなんでもないただの雑魚モンスターに過ぎない。

指輪の効力もかなり大きいがそれでも一体でレベルが2も上がるのは高難易度の恩恵だ。


拘束され身動きの取れない響の元に小走りで駆け寄るミア。

そしてそのままぼふっと抱きついた。


「──あ、あのミアさん……? 別の意味で心臓止まりそうなんですが」

「……ごめん、なさい」

「え? 」


まさかここでミアが謝ってくるとは思ってもみなかった。

お互い助け合ってあの吸血蜘蛛を討伐したはずだ。謝る必要なんでどこにもない。それどころか響は感謝しているくらいだ。


「ミア……最初に、怖がった。……だから……捕まった」


ああ、そんなことか。と内心ほっとした。もしかしたら自分の知らない所で何かやらかしたのかと思っていたが、どうやらそんなことはなかった。


──カイジンの時もそうだけど、本当に優しい子なんだな。

「あれを怖がるなって方が無理だよ。それにさ、結果的に助けれくれただろ? ありがとうな、ミア」

「~ッ! ……響、ずるい」


優しく微笑みかけるとミアは赤面し、響の胸に顔を埋めた。


──うーん、この状況幸せすぎるんだけど。どうしよう一生このままでいいかもしれない。


とは思ったものの、いまだ拘束されているのを思い出し我に返った。


「あの、ミアさん? そろそろこの糸切ってもらえると嬉しいんだけどなぁー……」

「ん……まってて……」


そう言うとテクテクと白光のある所まで行くと、両手で重そうに持ち上げ再びテクテクと近寄ってきた。


──あー、なんだこのかわいい生き物。頭馬鹿になりそう。


煩悩まみれの脳内を切断するように、ミアは拘束していた糸を斬った。


「さんきゅー!」

「響……肩、痛い……?」


麻痺はまだ少し残っているが、動けない程じゃない。

それよりも先程噛まれた傷の方が気になった。

どくどくといまだ流血していることから、やはり傷はそう浅くはなかった。


このまま攻略を再開するのは自殺に等しい行いだ。


「いちち……ポーション持ってきといて良かった。さよなら俺の5万円」


響はポケットから淡く光る緑色の液体が入った小瓶を取り出すとグビっと一口で飲み干した。

これが1本5万円である。と言っても低級ポーションなので、これでもまだまだ安い方。


少しずつ痛みが和らいでいくのを感じた。


「よし、これなら何とか大丈夫そうだな! ミアは大丈夫か?」


するとミアは紫色のMPポーションを飲んでいたようで、お決まりのブイサインで返した。

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