77話 ダンジョンは喫煙可①


響の息子が活躍出来なかった日から約3ヶ月が経過した。

馬渕翼主催の大会までも、残り3日を切った頃だ。


あれから響は更に強さに磨きをかけ、既にそこらのA級では歯が立たない程までに成長していた。

そして国民のほとんどに名が知れ渡り、名実共にトップクラスの探索者になっていた。


そんな響は誰かと待ち合わせをしているのか、気の抜けた顔で公園のベンチに座っている。


「ステータス」


【ステータス】

F級覚醒者 佐藤響 Lv179

HP:7560MP:1160


功績:ジャイアントキリング 単独踏破 志大才華フロラシオン 頂点 限界突破リミットブレイク


称号:ドラゴンキラー


力435

防御力351

知能348

速度426

精神力391


スキル

・不屈の精神Lv8

・目目連Lv5

・弱点特攻Lv6

・迅雷Lv5

・飛燕Lv3


ユニークスキル

黎明之刻デサフィアンテLv3


振り分け可能ステータスポイント 3


「うん、これなら結構いい線いけるんじゃないか?」


以前より遥かに成長したステータスを見て呟いた。


と、言うのも当初は下級にエントリーしたのだが、例の特別待遇のせいで上級しか参加が許されなかったのだ。

仮に下級に出た所で優勝は確定してしまうし、観てるものも他の参加者もさすがに納得はしないだろう。


それに、大会の賞品はなにも10億だけではない。

上級のみの賞品ではあるが、なにやら真紅の玉も貰えるらしい。

公式サイトでは画像のみとなっており、使い道などの詳細は不明だが、Sランクダンジョンのレアドロップ品との事。


──あの玉はどんな効果があるんだろう。まるでイメージがわかないな。


そんなことを考えていると、公園付近に1台の黒塗りの高級車が止まった。

ドアウィンドウが下がると、中からクラッドが手を振っている。


「響くーん。早いっすね、もしかして待たせたっすか?」


待ち合わせていた相手はクラッドだったようだ。

響はすぐに立ち上がり、


「いえ、いまさっきですよ」


それを聞いたクラッドは微笑み、乗ってと合図した。

響はドアを開け助手席に座ると、あまり慣れないのかソワソワと落ち着かない様子。


「あの、俺に会わせたい人って言うのは……?」

「先に聞きたいっすか? 対面してのお楽しみのつもりだったんすけど……」


今回声をかけたのはクラッドの方だ。

だがいつものように組合の公式的な呼び出しではなく、完全にプライベートな用らしい。


その用があるのもクラッド本人なのか、これから会いに行く人物なのかはわからない。

だが副会長を迎えに寄越すくらいだ、かなり地位の高い人物であるのは間違いない。


「……? それじゃあ、楽しみにしときますね」


正直、今すぐ知りたい気持ちはあるが副会長様の計らいを無下にするのも申し訳ない。

それにどうせすぐに分かる事だ。


「きっと驚くっす。んじゃ、行くっすよ」


──驚く? 一体だれと会わせるつもりなんだ?


それから小一時間乗っていると、やがて目的地らしき廃ビルについた。

本当にここで会っているのか、言い知れぬ不安が過ぎるが相手は組合の副会長だ。

滅多な事は起きないだろう。


「さ、ついたっす!」


元気にそう言うクラッドだが、どうも車を降りる気になれない。

廃ビルと言うだけでも胡散臭いのに、この中で誰かが待っていると考えると更に胡散臭い。


「あ、大丈夫っすよ! このビル自体は何の関係もないっす。俺達が行くのはあっちっすよ」

「え?」


そういってビルの隅を指さした。


隅には見覚えのある歪んだ黒い空間。

これまで何度足を運び、死にかけた事だろう。


今更見間違えるはずもない。


「ゲート? まさか、ダンジョンに行くつもりだったんですか!?」

「ははは、とりあえず入るっすよー!」


キョロキョロと当たりを見回したかと思うと、そう言ってゲートへと走るクラッド。


「まじかよ」


会わせたい人と言うのは何だったんだろうと思いながら仕方なくそれに続いた。


──あれ、そういえば監視員居なかったような……大丈夫なのか?


そんな疑問が頭に浮かんだのは既にダンジョンに突入してからだった。


ダンジョンのランクも分からないまま来てしまったが、この2人ならAランクでも何とかなりそうだ。


目の前に広がっているのは、既に倒壊しているビル。

廃ビルとか、そういうのではない。跡形もなく倒壊しているのだ。


「随分遅かったなクラッド。退屈すぎてほとんど終わっちまったぞ」


瓦礫に腰掛け、煙草に火をつけてそう言ったのは、他でもない馬渕翼だった。


「つ、つば──」

「遅くないっすよ!! こっちは仕事もあるんすから!! クロードさんみたいに暇じゃないんすよ!!」


響の声をクラッドの怒号が掻き消した。

副会長としての業務を終わらせ、響を拾ってわざわざここまで来たというのに、遅いと言われれば誰でも怒るだろう。


プンスカしているクラッドは、思い出したかのようにこちらに振り向いた。


「あ、さっき言ってたのはこのヤニカ……この人っす。勿論、知ってるっすよね?」


何か訂正があったようだが、そう言ってクラッドはニヤリと笑った。


因みに、ダンジョンは禁煙ではない。

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