76話 初陣じゃあ!!!!!!!!
「……できた……!」
しばらくすると、ミアの嬉しそうな声が聞こえてきた。
待ちに待った手料理が完成したのだ。
漫画のように山盛りのご飯と、ゴロゴロと大きめにカットされた具材入りの茶色いルー。
鼻と食欲をダイレクトに刺激する独特な香り。
「こ、これはッ!!スパイスで味付けされた野菜と肉……複数の粉末を混合させて作ったソース……そして俺の胃袋の願望によりそった香り……カレーだッ!!!!!」
大好物を前にテンションが爆上がりしているのだろうが、控えめに言っても気色が悪い。
「響……恐い……」
作った本人すらこのドン引きようだ。
最早これ以外にかける言葉もない見当たらない。
「許せ。この至福の料理を前に昂られらずにはいられない……いた、だきます……!」
訳の分からない事を呟き、目を瞑り感覚を味覚に全振りして添えられたスプーンで一口。
「──ッ!」
「……ど、どー……?」
カッと目を開くが無言。
ミアは初めて振る舞う手料理にドキドキしている。
美味いか不味いか、どうにも気になって仕方がない。
響はカチャりとスプーンを皿に戻した。
「……分厚く柔らかで旨味たっぷりな肉……ホクホクとしたじゃがいもの食感がしっかり感じられて食べごたえは抜群だ!! 素材からにじみ出る旨味とスパイスの香りが立るカレーはとろみのある舌触り……ご飯によく絡むことこの上ないッ! 凝縮された濃厚な旨味とどこか懐かしい味……ああ、お母さん……」
「……キモい……」
早口で言った響は狂人のソレであり、ミアの感想はごもっともだ。
特に最後の一言には100人が聞けば、全員がミアと同じ答えに行きつくだろう。
だがそんな事を気にもせず猛烈な勢いでカレーを頬張る響を見て、ミアはクスリと笑った。
それから2人は食事を終え他愛もない会話をしている内に時刻は22時になっていた。
「あー……ごめん。ミアが着れるような着替えないんだけど……これでもいい?」
シャワーを浴びたいというミアだが、肝心の着替えがない。
身長差的にどれを着てもブカブカだ。
そんな中響が選び出したのは、真っ白なワイシャツと短パン。
まあ定番と言えばそうなのだろう。
「ん……ありが、とう……」
一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにそれを受け取り浴室へと向かった。
「あれ、よく考えたら……今ミアは生着替えしている訳で……この家には俺しか居ない訳で……いや駄目だ。さすがに駄目だ!!」
佐藤響もなんやかんや男の子なのだ。
ベッドにダイブしてニヤケ面で枕を抱いている絵は中々にドギツイものがある。
きっとミアの着替えと、入浴の妄想を膨らませているのだろう。
楽しい楽しい妄想を繰り広げている内に浴室からミアが出てきたのだが、
「ふく……おっきい……」
「ぁ──」
ブカブカのワイシャツがとんでもない攻撃力を持っていたようだ。
それに何故か短パンは履かなかったようだ。
もしかすると大きすぎてずり落ちてしまったのかもしれない。
当然、ワイシャツ1枚で隠し切れる程小さな身体ではない。
裾の先からは陶器のように白く、女性特有の曲線を描いた美しい太腿。
焦って上半身の方に目をやると、上から2つ程外されたボタンに自然と視線がいっていた。
そこから覗く柔肌と、ほのかな膨らみ。
くっきりと浮かび上がった鎖骨は艶めかしささえある。
──え、えっちだ……!!!!!! 思ってたよりもずっと!!!!!!
「……恥ずか、しい……から……見ないで……?」
完璧だ。
少し顔を赤らめて、潤んだ瞳での上目遣い。
これはもう見てくれと言っているようなものだ。
と、お下品極まりない響の中では脳内変換されていた。
「あー……うん、ごめんごめん」
言いながらもチラチラとワイシャツを焼き尽くすような熱い視線。
「ぁぅ……響も、シャワー……!!」
「あ、ちょ、押すなって──」
羞恥が限界に達したのか茹でダコのように真っ赤な顔で、グイグイと響を浴室においやろうとしたが、
「あっ……」
響の脚がもつれ勢いに耐えきれずにそのまま倒れてしまう。
勿論、ミア自身すぐに勢いを殺す事が出来ずに覆い被さる形に。
超至近距離で視線が交差する。
ほんの少し動けば、ミアの唇にあたってしまう。
互いに何か言おうとはしない。
──やばい。目でっか。口ちっさ。めっちゃいい匂い。かわいすぎる。これは、俺が行くべき……だよな……?
至近距離のミアはやはり魅力的だ。
視覚と嗅覚が刺激される。
響はミアの頭に腕を回し、そっと近付けようとするが、
「だ、だめ……!」
目があちこちと泳がせながらミアは小さな声で、しかし、しっかりと拒否した。
「その……ぁぅぅ……しゃわー、浴びて……から……」
「え、それって──」
ミアは真っ赤な顔でなんとかそれだけ言葉を紡ぎ出すと、もの凄い勢いでベッドへとダイブ。
そしてそのまま布団を被りなにやらバタバタと暴れている。
──もしかしてOKって事ですか!?
つまり、そういう事だろう。
ポカンと数秒を過したかと思うと、静かに浴室へ向かった。
「風呂場まで甘い香り……シャンプーは変わってないんだけども……」
ミアの直後に入った浴室は、甘い香りが充満していて響はなんだか幸せな気分になっていた。
「念入りにだ。念入りに、洗うんだ。落ち着け俺、あと息子よ……出番は近いぞ」
どこに、とは言わないが下を向いて神妙な顔つきで下腹部に言葉を投げる。
ぴく、と動いた気もするが気のせいだろう。
それから響は時間をかけて身体を洗った。
それはもう丁寧に、何度も何度も洗った。
「初陣じゃ……!」
浴室から出てタオルで水気を拭き取り、バクバクとやかましい心臓をそのままにベッドに向かった。
──やべえ、緊張してきた。
変わらずに布団を被っているミア。
布団に手をかけようとするが、中々勇気が出ない。
ゴクリ、と生唾を飲み込み意を決してゆっくりと布団を捲った。
「……」
そこには天使のような寝顔ですやすやと寝息を立てているミアがいた。
「……息子よ、しばし待たれい」
泣きたくなるのを堪え、そっと布団をかけ直しとぼとぼと部屋の端っこへと歩いていった。
床で丸くなり寝る姿勢をとると、急に虚しさが幅を利かせてきた。
「こんな事だろうと思ってたもんね!!!!! ふぐぅ……!」
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