66話 複合魔法
「響……痛い……」
その言葉でふと、我に返る。
なんだか急に気恥ずかしくなり、名残惜しい気持ちを抑えそっと腕を離した。
「あっ、ご、ごめん。嬉しくってさ」
「大、丈夫。……でも、なんで……ここに……?」
ここに、と言うのは北海道という意味とこのダンジョンにという二つの意味がある。
ミアからしたら響が何故北海道にいて、何故このダンジョンに辿り着けたのかさっぱり分からなかった。
「ああ、それは──」
────
──
─
「大変……だったんだ、ね。……ごめん……」
響とミアは、互いにここに来るまでの経緯をひとしきり話した。
すると、ミアは申し訳なさそうにポツリと呟いた。
自分が響にとって負担になっていると、そう思っているのだろうか。
「謝るなよ。ミアは悪くないだろ? とにかく、急いでボスを倒さないと……
ミアの話では氷鬼ギルドは組合からの救助を断り、自分達のギルドから人員を派遣するつもりらしい。
このダンジョンはBランクで来るとしたらA級の剛力もいるだろう。
口封じと、世間へのパフォーマンスの為だ。
ミアと響が組合に救助されてしまえば、確実にそこから話が漏れる。
ならばその可能性ごと潰してしまおうというのだ。
中で生き延びていたとしても、確実に自分達の手で葬るつもりだ。
「ミア、立てるか?」
「ん……大、丈夫」
Bランクのボスを倒せる保証はないが、それでも今この場に留まり氷鬼ギルドを待つよりは遥かにいい。
「行こう。いつまでもここにいちゃ駄目だ」
コクリと頷いたミアの手を引き2人は洞穴を出た。
ひたすらに森の中を歩き続けると、遠くの方に何かいるのが見えた。
即座に身を隠し、木の陰から顔を覗かせる。
「アイスオーガ……それだけじゃない。アイスタイガーまで……どういう事だ?」
目視できるのは3匹のアイスタイガーとその後ろをズカズカと歩くアイスオーガ達。
まるでアイスタイガーを従えているようにも見える。
「あんなの……見た事、ない……」
同じ種族の上下関係ならゴブリン達がいい例だが、全く異なる種族同士で上下関係などミアですら見たことはなかった。
上級ダンジョンではこのような事があるのだろうか。
「……まだ、何かいるぞ」
数匹のモンスターの最後尾は、明らかにこのダンジョンの主だった。
他のモンスターとは文字通り格が違う。
アイスオーガの族長だろうか。
3メートル以上あるアイスオーガの倍はあろうかと言う凄まじい巨躯。
全身に施されたペイントは、部族特有のものだろうか。
手にはこれまた巨大な大斧が握られ、刃の部分だけでも響よりはありそうだ。
胸元まで伸びた髭、首と両手首には珠数の様なものを付けている。
赤く光る眼光は、並のものなら睨まれただけで生を諦めてしまうだろう。
その赤眼がギョロりと動き、響の視線と交差した。
「え……?」
そして大斧をこちらに向け、耳を劈く程の叫び声を上げた。
「グラアアアアア!!」
アイスタイガーとアイスオーガはそれに呼応するように雄叫びを上げ、大斧の指す方向──つまりは、2人に向かって一斉に駆け出した。
「ミア!」
「ん……わかってる……!」
逃げ場はあるがアイスタイガーがいるのでは逃げるのは至難の業だ。
見つかった時点で戦うしか選択肢が残っていなかった。
響の掛け声にミアは頷き、積もっている雪に杖を突き刺し魔法陣を展開。
大量に放たれた水は奔流となってモンスターを呑み込んでいく。
ミアの魔法では、Bランクダンジョンのモンスター相手にはあまりダメージは期待できない。
多少の足止めは出来たとしても、すぐに追いつかれるのが関の山だろう。
だがそれは、あくまでもミア単体の魔法の場合だ。
「それだけじゃねぇぞ。サンダーボルトォォォッ!」
ミアの魔法に向けて放たれ、激流に乗った雷撃は触れるもの全てに感電する。
アイスタイガーも、アイスオーガももれなく複合魔法の餌食となり悶え苦しんでいる。
しかし、2人の攻撃はまだ終わっていなかった。
杖を抜き、激流に向け更に魔法陣を展開。
すると、パキパキと音を立て水は氷となり、やがてそれは激流を悶えるモンスターごと氷床に変えた。
「響……後は、お願い……少し休む……」
ミアの顔色は悪く、相当無理をして魔法を行使していたみたいだ。
無理もない。格上相手に何日も逃げ回り、まともに回復もしていないのだ。
逆にこれだけやれれば上出来だろう。
「ああ、任せろ」
響は白光を抜き、そう言ってボスへと駆け出した。
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