81話 鬼畜な2人②


宙を旋回し標的を響に定める腐毒龍。

響はひそかに標的が翼になる事を期待していたが、彼我の戦力差を理解しているのか離れた二人を追うことはしなかった。


「まずはお手並み拝見──飛燕ッ」


上空を飛び回る腐毒龍に向け、白光を切り上げ斬撃を飛ばす。

魔法耐性が高い相手だが、飛燕ならば物理攻撃なので威力が軽減される心配もない。


ただそれは、当たればの話だ。


腐毒龍と響は距離にして約10メートルほど。

いかに飛燕が飛ぶ斬撃と言えど、常に動き回っている的に当てるのは容易くはない。


しかし、響の狙いはそれではなかった。


「迅雷・まとい


サンダーボルトの上位スキルである迅雷。

攻撃は勿論の事、それ以外にも応用が効く使い勝手のいいスキルだ。


バチバチと響の身体を雷が音を立てて迸るほとばしる──


次の瞬間、響はもうそこにはいなかった。

微かな土煙と大地にめり込んだ足跡を残し、腐毒龍目掛けて跳躍。


飛燕で進行方向を限定し、狙い通りの位置に腐毒龍が動いた。


首を狙い白光を切り上げるが──


「かったいなおい!?」


まるで鉄の塊に触れたように、甲高い音を響かせ刃が弾かれた。

そしてほぼ同時に、翼膜からはドロリとした黒に近い紫色の液体が生成されていく。


──毒か!


咄嗟の判断で顔面を蹴りつけ、地面へと退避する。


腐毒龍は翼を大きく広げ、横回転しながら響目掛けて突っ込んでくる。

回転を加えた事で翼膜から垂れる毒液は飛散し、所構わず毒を撒き散らす。


「乱れ打ちかよ!」


上下左右に逃げ場はない。

バックステップで回避するも、腐毒龍は更に加速し響を追い詰める。


響は雷撃を前方やや上に放ち、ほんの僅かな間だが撒き散らされる毒液を蒸発させる。

そして前宙の要領で迫る腐毒龍の顔面ギリギリで躱す。


──逆骨ってのは……あった!


尾に向かって多くの骨が伸びる中、中心の1本は一際大きく頭に向かって伸びている骨を見つけた。


縦回転の勢いを利用し、逆骨を真上から叩き切る。

首の骨とは違い、刃がめり込む感覚。


ぐっと一瞬刃が止まるも、響は力ずくで振り抜いた。


「ギャオオオオオオ──……!」


腐毒龍は堪らず叫び、暴れながら地に落ちていく。



「おお、響君やるっすね!」

「……アイツは、何考えてんだ? 自殺願望でもあるのか?」


観戦していた2人はそれぞれ正反対の感想を口にした。

クラッドは褒めているが、翼は呆れた表情でタバコを吸っていた。


「えぇ、上手く立ち回ってると思うんすけど……」


クラッドの言う通り響は初見の、それも初めてのAランクボスを相手によくやっているように見える。

しかし、翼の意見は真逆でてんで駄目らしい。

世界一の探索者は何を見てそう思ったのだろうか。


そんな翼は眉間に皺を寄せ、タバコを深く吸い口を開いた。


「動きは悪くねぇ。それ所かお前の言う通り大したもんだ。だが、アイツの武器……なんだありゃ? なまくらじゃねぇか」


武器というのは勿論白光の事だ。

確かに響が白光を購入したのは、フラクタス戦よりもずっと前だ。


あの頃と比べると、比較にならない程の力を手にし、また敵も遥かに強くなっている。

よくよく考えると、翼の言う通り今日まで白光で通用していたのが不思議なくらいだ。


「それに装飾品も特に付けてねぇな……急成長して装備が追いついてなさすぎる。Bランク以下ならステータスゴリ押しでいいかもしれねぇが、このままAランクにいったら、いつか死ぬぞ」

「あー……言われてみればそうっすね。確かにあの刀でAランクは厳しいかもっすねぇ……でも俺槍しか持ってないんで、貸すに貸せないんすよ」


クラッドはどこからか取り出した、立派な装飾の施された赤紫の三叉槍でトントンと地面を小突く。


「仕方ねえな。先行投資でもしてやるか」


翼はそう言うと、どういうカラクリなのか亜空間が出現しそこに腕を突っ込んだ。


「刀か……確かどっかにあった気がすんだけど……」


数秒腕をまさぐり、目的の物を見つけたのか亜空間から腕を引き抜いた。


「えっ!? それってまさか……」

「ああ、よく覚えてたな。メーデイアが使ってた刀だ。放っとくには惜しいと思ってな」

「よくあの場面でそんな事できたっすね。ちゃっかりしすぎっすよ!」


刀を見て昔を思い出しケタケタと笑うクラッド。

メーデイア、と言うのは翼達が昔に戦った魔女であり、中々に苦戦を強いられた人物だ。


メーデイアは当時のパーティメンバーの一人、アルベルトの妹の身体を──

いや、語ると長くなりそうなので割愛するが、とにかく規格外の敵が所有していた刀だ。


漆黒で無駄な装飾のないシンプルな鞘と、血のように赤黒い少しほつれた柄。

刀身はわからないが、なんとも不気味なオーラを発している。

抜かずとも妖刀の類である事は明白な程に。


「細かい事はいいじゃねぇか。こうして役に立つんだからよ。メーデイアには感謝しねぇとな。──おい、F級君。俺からのプレゼントだ」


そう言って翼は乱暴に刀を投げた。

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