第7話 探索者組合①


公園のベンチに座り、ぐぐぐっと大きく伸びをして深呼吸。



「っく〜! やっぱり何回入院しても、退院の日って気持ちいいなあ」


醜態を晒した翌日、検査の結果至って健康体という事で院長より退院の許可がおりた。

今回は特殊な入院という事で、入院費は全て探索者組合が負担してくれた。


──でも、この後組合に顔出さないといけないんだよな。あんまりあそこ好きじゃないんだけど……

「あ、そういえばあの時変なスキルを獲得したんだっけ。すっかり忘れてた」


転移先での恐ろしい体験をした響だが、肝心のスキルの事はどうやら頭からすっぽ抜けていたみたいだ。


「でも、どうやって使うんだろう。可視化がどうとか言ってたけど……」


などと呑気にボヤいていると、正午を知らせる鐘が響いた。


「やべ、そんな事より組合行かなきゃ! 夕方は混むから今のうちに行かないと面倒だぞ!」


夕方になるとダンジョンを攻略した探索者達が、戦利品の鑑定やステータスの確認をしにくるため、組合に探索者が殺到する。

響はなるべくその前に組合に行きたかった。


────


──



「あの、佐藤響と申します。先日のEランクダンジョンの件で来たんですけど」


組合は巨大なビルを所有しており、響がいるのは1階の総合案内所。


「佐藤響さんですね。少々お待ちください」


そう言うと受付の女性はカタカタとキーボードを叩き始めた。

長い黒髪に薄いメイク。清楚系美人な彼女は受付にはもってこいな存在だ。


──綺麗な人だなあ。この人も探索者なのかな? 覚醒者ランクはどれくらいなんだろう。


ふと受付のランクが気になった。別に珍しいことではないが、この日はいつもと違った。


【C級覚醒者 島田桜 Lv9】


「うわあっ!」

「? どうかされましたか?」

「あっ……い、いえすみません。虫……そう、虫が目の前を通ってびっくりしちゃいました。ははは」


急いで取り繕った割にはまともな言い訳だ。

響の目の前には、あの時と同じように空中に文字が浮かんでいる。

しかもそれは、今し方響が気になっていた情報である。


──びっくりした! 確かあの時もこんな感じで文字が浮かんでたな。もしかして、これが目目連?のスキルなのかな。


などと分析していると、


「そうですか。佐藤様、45階の副会長室にお願いします」

「えっ、副会長室ですか!? はあ……わかりました、ありがとうございます」


受付の女性は営業スマイルで返した。

響は目目連の事は後で考えることにして、副会長室へと向かう事にした。


──副会長室かあ……なんか場違いすぎて嫌だなあ。


絶大な規模と権力を誇る探索者組合のNo.2である副会長。F級の響にとっては雲の上の存在。行きたくないと思うのは当然だ。

響は頭をかき大きくため息をついた。


45階につくと、すぐ目の前には『副会長室』と書かれたドアが目に入った。

どこにでもあるシンプルなドアな筈だが、副会長の看板があるだけで得体の知れない圧を放つドアへと変身していた。


「ふぅ……佐藤響です」


ノックをし名乗る。それだけなのにもう疲れた。


「入っていいっすよー」


ドア越しに聞こえたのは、副会長室に似合わぬ気の抜けた声。

響は心の中で、怖い人じゃありませんようにと願いドアノブに手を掛けた。

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