第12話 探索者組合執行部①
「おい我妻。冗談にしちゃ度が過ぎてるぞ。今謝るなら聞かなかった事にしといてやるが……?」
ボスを目の前にしているというのに、互いの視線はボスを捉えてはいない。
普段気さくな武田も眉間に皺を寄せ、ピリついた雰囲気だ。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 武田さん達がなんだって? そんな訳ないだろ!」
過ごした時間は短いがこの人達はF級の自分を守り、気を使ってくれた。
馬鹿にすることなく褒めてくれた。
──それが保険金詐欺だって? そんな馬鹿な事あるか。
響の考えを見透かした様に、我妻は数枚の書類と『探索者組合 執行部』と書かれた名刺を差し出した。
「僕を疑う気持ちも分かります。ですが、それはこの資料を見てから響君自身で判断してくれませんか?」
「響君! 奴は危険だ! 信じちゃいけないッ」
「武田俊哉、貴方は黙っていてください。後で然るべき報いを受けてもらいます」
響はどうしたらいいか分からなかったが、とりあえず渡された書類に目を通す。
そこには過去5回に渡り、FランクやEランク探索者の死亡報告。そして確実に保険金を貰う為に、武田の攻略隊参加への同意書も用意している。
──そん、な……じゃああの同意書は……
あの時、響は流し見しただけでよく読んではいなかった。
「武田さんどうして……?」
「~ッ! 違うッ! コイツの言っていることはデタラメだ! 俺達がそんなことすると思うのか!?」
「ふふ、低ランクの荷物持ち、それにしては破格な報酬。そして事故と偽り殺害を数回。それを記した調査報告書があってもまだ認めないとは……見苦しいですね武田俊哉」
確かに我妻の言う通り証拠は出揃っている。
我妻の探索者組合執行部と言う強力な説得力を持った名刺もあり、響は武田達の事を信じられなくなっていた。
低ランク探索者を利用した保険金詐欺はそう珍しい話でもない。月に1度くらいはニュースでも報道され、注意喚起が促されているくらいだ。
そう、有り得る話なのだ。
「くそ! お前が俺達の攻略隊に入ったのはなんのためだ? わざわざこんな回りくどい事をして俺達を嵌めて……一体何がしたい」
「正義を執行。それ以外に理由はありません」
淡々と話す我妻はなぜだか興奮しているようにも見えた。
それと対象的に悔しそうな表情の武田と目が合った。
「くっ! 響君、俺達は──」
「……俺が馬鹿だった。そうだ俺はF級なんだ。こんなに良くしてもらえる訳がなかったんだ」
「そろそろそこの蛇も動き出しそうですし……その前に貴方達には相応の罰を」
我妻は短剣を構えた。
「くそ、言っても無駄か! それなら仕方ない。武力行使するまでだッ! いいかお前らボスは刺激するな。我妻を
「おう! この野郎許さねぇぞ!」
「やっちまえ!」
全員が武器を構え1対7の状況。普通に考えればC級の我妻が勝てる道理はない。
しかし、我妻はニヤリと笑い、
「ああ、そうそう。僕の覚醒者ランク……あれ嘘です」
覚醒者ランクを偽る事はそう難しい話ではない。組合相手には不可能に近いが、ただの攻略隊ともなれば口頭での申告のみ。
上のランクと偽ればすぐにボロがでるが、逆ならば力を調整するだけでいい。最もなんのメリットもない為、通常はそのような事はしない。
「な、に?」
「本当はC級じゃなくてB級です、よッ!」
言い終えると同時に我妻が消えた。
「ぎゃあああ!!」
「ぐああっ!」
瞬く間に2名が血を噴き出す。
武田は何が起こったのか検討もつかない様子で狼狽える 。
だが不思議と響はその動きを捉えていた。完全にではないが、何をしたかは理解出来た。
──早い! あんな一瞬で2人も……これがBランク覚醒者なのか。あの人のステータスは……
【ステータス】
B級覚醒者 我妻良樹 Lv25
HP:650 MP:120
力80
防御力75
知能67
速度95
精神力62
表示されたステータスは、武田と比べると天と地の差があった。
速度に特化している上、全体的なバランスもかなりいい。
──武田さんの倍近いステータス!? やっぱりランクが1つ違うとこんなに差が出るものなんだ。そうだ、あんな奴らやられちまえばいいんだ……それで、いいはずだ。俺は……間違ってない。
響は葛藤していた。次々に倒れる攻略隊。残るは既にC級の3人のみ。
そしてその3人も時間問題だろう。全くと言っていいほど、我妻の速度についていけていない。
本当に我妻を信じていいのだろうか。心の隅には小さな疑惑はまだ、息をしている。
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