第21話 神ダンジョンで引きこもる!①


グールが出現した通路を進むと、両サイドには個室があった。そっと覗いてみたが、中には誰もいない。それはどこの部屋も同じだった。


「うーん、このダンジョンどこに向かえばいいのかさっぱりわからないな。目目連」


【地下室への通路を探してください】


──目目連さんまじ有能。地下室か……そもそもここ何階なんだろ。


【5階です】


どうやら目目連曰く、現在5階にいるらしい。

5階から地下と言うとそれなりの距離はあるはずだ。


「となると、エレベーター……は使えないだろうし階段を探さないと!」


こんな廃病院でエレベーター等使える訳もなく、まずは階段を探す事にした。

スタート地点からここまでは1回曲がっただけ。別の通路があった訳でもない。


「うん、とりあえずこのまま進もう」


それからは部屋の確認などはせずに、階段探しを優先した。

しかし、しばらく進むと階段を見つけられないまま行き止まりになってしまう。

通路を見落としたのかもと思い、来た道を戻ってみてもやはりそれらしきものは見つけられなかった。


そんな時、後ろからグールと思わしき足音が廊下に響いた。


「またグール? あれ、アイツはさっき……?」


角から出てきたのはどこか見覚えのあるグール。

グール等基本似たり寄ったりなのだが、なんとなく既視感を覚えた。


「いや気のせいか。とりあえず倒しとこっと」


最早目目連に出会うまでの臆病さは消え去り、自信に満ち溢れている。

白光で首を斬り落とすと、その亡骸を観察し特徴を覚えた。


──おっさん、豚鼻、前歯抜けてる。よし、ちゃんと覚えたぞ!


覚え方は酷いものだが特徴は特徴だ。

廊下に階段を確認できなかった響は、駄目元で各部屋を確認する事にした。


「なんだろうすんごい見覚えあるわここ」


廃病院と言っても病院は病院。

このダンジョンは律儀にそこまで再現していた。


大きめのベッドが4つと、医療機器があるだけの質素な部屋だ。

カーテンを開けてみてもやはり階段はなかった。


「次!!」


その後いくつかの部屋を確認し、途中の部屋のベッドの下に何やら隠し扉のような形跡を見つけた。


「これは……」


しゃがみこみ、そっと床をなぞる。

すると僅かだが境界線があるのか確認できた。


「こりゃ廊下にないわけだ。まさかこんな所にあるなんて思わねぇって」


ブツブツ文句を言いながらベッドをどかし、床に作られている隠し扉をあける。

そこにはやはりと言うべきか、下へと続く階段が姿を現した。


ゔぅぅぅ……


早速階段を降りようとした矢先、またもや後ろからグールの呻き声。

瞬時に飛び退き距離をとる。


「チッ……いい所で邪魔すんなよな。ん? おっさん、豚鼻、前歯も……ない! コイツらまさか光属性じゃないと無限に復活するの!?」


若干の苛立ちを覚えつつも、今更グール程度どうということもない。

一太刀の元に切り捨てると、


【レベルアップしました】


と、空中に文字が浮かぶ。

響はその場で立ち尽くし、思考をめぐらせた。


──どうしてだ? この歯抜けジジイを倒したのは多分3回目だ。それなのにレベルアップ? 復活しても経験値が貰えるのか? だとしたらこのダンジョン……


「神ダンジョンだッ!!!!!!!!」


うおおお、と仄暗い部屋で雄叫びを上げ目を輝かせる。

と言うのも、響は天運の指輪により経験値が3倍貰える状態だ。

グールはレベルも低く大した経験値は貰えないが、3倍と言うなら話は別だ。


危険性もほぼなく、ソロで挑んでいるので他に取られる心配もない。

経験値バフのある響にとって、ここは間違いなく神ダンジョンなのだ。


ニヤリ、と悪い笑みを浮かべた響は階段を降りずに元来た道を戻り始めた。

5階で遭遇したグールは全部で7体。それをもう一度倒してから下に行こうと言う乞食精神を発揮した。


それから数分後、なんと倒したグールの亡骸をわざわざ階段のある部屋に運び入口を封鎖。

乞食精神もここまで来ると脱帽ものだ。


「ゲヘヘ、これでコイツらも俺と一緒に下を目指してくれるよなァ? よし決めたぞ! 俺の限界が来るまでこのダンジョンに引きこもってやる!」


などと、アホな事を抜かしながらルンルン気分で階段を降りていった。

その後、復活したグールは部屋の中をウロウロし始め、やがて階段を見つけるとゆっくりと降りていった。

響の作戦は成功したのだ。

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