第27話 俺なんかしちゃいました?②


「くく……あはは! 全く貴公は楽しませてくれるな」


あまりにも呑気な姿に堪えきれずエレナは吹き出した。


「あの、なんでここに? エレナさん達ならもっとランクの高いダンジョンに行けると思うんですけど……」

「部長達は貴方を助けに来てくれたんですよ! 3日間も出てこないから!」


的はずれな疑問を口にするとすぐさま後ろの方にいた少女に否定された。


「ああ、なんかそんな規約ありましたね……すみません、見ての通り大丈夫です」


監視員とエレナ達にぺこりと頭を下げ、そそくさとその場を去ろうとすると、


「待ってくださ──うっ、酷い臭いですぅ……」


執行部の1人がその肩を掴み、悪臭に顔を歪める。

響自身、鼻が慣れてしまったせいかなんとも思わなかったが、3日間も腐敗したモンスターを相手にしていたのだ。臭いがつかない方がおかしい。


「それはさすがに傷付きますよ……えっと……」

「し、失礼しました! 悪気はなかったのです! 私は執行部に務めてます、ミリア・スタンフォードです!」


ミリアと名乗る少女はどうみても未成年にしか見えない。水色の長い髪を後ろで結い、杖を持っていることから魔法使いかヒーラーの役割なのだろう。


「うちのがすまないな。疲れている所申し訳ないのだが、少し話を聞かせてはくれないか? どうしてF級の貴公が、ソロでダンジョンを攻略出来たのか。説明を願いたい。貴公がどう感じているかは知らないが、F級のソロ攻略など尋常ではない事だ」


エレナは決して怒っている訳ではない。だが、先程までの笑顔は消え、有無を言わさないような凄まじい圧を感じる。

響は反射的に白光に手をかけてしまったが、直ぐに我に返った。


──危なかった。気圧されて剣を抜くところだった。あまり注目されたくは無いけど、この感じ……嘘もつけないな。さて、どうしたもんか。


よく考えて物を言わなければ、組合に連れて行かれ強制的にステータスを見られてしまうだろう。

そうなれば、目目連のスキルもバレてしまう。


悪い事をしている訳ではないので、最悪それでも構わないがあまり注目を浴びたくないのだ。

行動が制限されるし、面倒だ。そして何より今は風呂に入りたかった。


「あー……この間の報奨金全部使ったんですよ。魔石とか魔石とか魔石とかに。おかげで時間はかかりましたけど、なんとかクリアって感じですね」


いやあもうヘトヘトで、と大袈裟に振る舞う。


「魔石を……?」


──さすがに苦しいか? 頼む、信じてくれエレナさん。


腕組みをして少しの間無言で思案するエレナ。

その傍らでどうにか切り抜けたいと願っている響。


「E級ダンジョン程度ならそれも可能……か。疑って済まなかったな。最近故意にディザスターゲートを開こうとする輩がいてな。念の為、と言うやつだ」

「ディザスターゲートを……一体どうしてそんな事を?」


ゲートが開かれてから約100時間が経過すると、ゲートはディザスターゲートへと変貌を遂げ、誰でも自由に出入りが可能となる。

そしてその誰でもの範囲には、モンスターも含まれる。

どういう絡繰なのか、モンスターは大幅にレベルアップした状態でディザスターゲートから出てくるのだ。


過去数回、日本でもディザスターゲートを確認しているが、そのどれもが周囲に甚大な被害を及ぼしている。


EランクやDランクダンジョンならまだしも、AランクSランクのディザスターゲートとなると、国そのものが滅亡してしまう可能性すらある危険なものだ。


「それはわからない。が、危険な思想を持っている事は確かだ。そして、それを扇動している者がいる。情報が不足している今、どんな些細な可能性も捨てきれないのだよ」


少し疲れた表情で、日頃の鬱憤を吐き出すように言った。

気丈に振る舞う彼女だが、執行部部長というポストはどうやら激務らしい。


それなのに自分の事で時間を割いてしまって申し訳ないなと、響の中にほんの少し罪悪感が芽生えた。


「なんかすみません。俺のせいで無駄足取らせちゃったみたいで」

「なに、本命は救助だ。対象の貴公が無事である事が何より大切なのだよ。が、佐藤響。今後このような無茶はしない事をすすめるよ。探索者と言えど命あっての物種だ。さて……見ての通り対象者は無事だ、撤収する」


エレナは他の組合員達に撤収を告げ、颯爽と車の中へ行ってしまった。


──忙しい人だなあ。今度組合に行った時にでもお詫びとして菓子折でも持ってくか?

「俺も帰って風呂入ろっと」


車が出る時にエレナがこちらを見て微笑んだ気がするが、気のせいだろうか。響は疲労のたまっている身体に鞭を打ち、帰路へと着いた。

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