第11話 いざ、ダンジョンへ!③


「来るぞッ」


武田が叫ぶ。

それと同時に3体のコボルトは大地を蹴った。

狙いは明らかだ。


「お、俺!?」


獣の本能なのか、それとも知能なのか。コボルト達は1番弱い響を狙い、確実に数を減らしに来ている。

しかしそれを武田達が簡単に許すはずもない。


「舐めるなよッ!」


跳躍した1匹を大剣の一撃の元斬り伏せた。

直進したコボルトの頭部をハンマーがぐしゃりと潰し、脳漿をぶち撒ける。


「す、凄い……!!」


残る1匹はジグザグのステップを刻み、矢の狙いを躱し距離を詰めていく。


「くっ、これじゃあ狙いが定まらない!」


D級探索者の男は必死に狙いを定めて矢を放った。

右脚に刺さり小さな悲鳴を上げたコボルトだが、その勢いは止まらない。

武田もほかの2人も距離的に間に合わない。


「ぁ……」

「響君!!!!」


コボルトは唾液に塗れた口を開け、響の首筋を狙いどんどん近付いてくる。


──やばい。やばいやばいやばい。調子に乗ってた。気を抜いたつもりはなかったけど、一瞬目を離しちまった!

「──そうだ! 弱点、弱点は……」


彼我の距離は既に3メートルを切った。時間にすればゼロコンマ数秒だ。

凶悪な顔面が迫り来るその時だった。


コボルトの頭部が薄らと赤く光って見えた。


──頭!


響は半ば反射的に長剣の切っ先をそこに向け、死を覚悟してぎゅっと目を瞑った。

しかし、痛みはやってこない。代わりにやって来たのは肉を貫く嫌な感触と、ずしりと剣にのしかかる重さだった。

恐る恐る目を開けると、


「お、俺が……やったのか?」


目の前にはコボルトの顔面。口から脳天にかけて貫かれ絶命している。

剣を伝って生暖かい血液が腕に流れてきた。


「おお……F級だと言ってたけどやるじゃないか響君! F級がコボルトの単独撃破なんてそうそうできるもんじゃないぞ!?」


ガハハと笑いバシバシと響の方を叩いた。

褒められ慣れていない響はなんだか照れくさくなって、無意識に頭をかいた。


「武田さん達もかっこよかったですよ!」

「お、なんだぁ? 見る目あるじゃねぇか」

「悪いな、本当は俺が仕留めなきゃいけなかったんだが……でも本当にすげぇよ!」


それから4人はコボルトから魔石を剥ぎ取り、どんどん先へと進んで行った。勿論響はあれから戦闘を行っていない。荷物持ちとして来ている以上、武田達も無理をさせるつもりはなかった。


──なんか今日はすげえいい日だ! それもこれも目目連のおかげかも! 諦めずに探索者を続けて本当に良かった。


しばらく進むと、少し先に拓けた空間が見えてきた。


「お! 俺達が当たりだな!」


武田はそれを見てニヤリと笑った。

響が不可解な顔をしているとそれに気付き、


「多分あそこがボス部屋だ。だから俺達はここで一休みできるってこった!」

「やったー! いやあ思ったより素材が多くて重かったんですよね」


響の背負うリュックはコボルトの魔石や、ダンジョンでとれた素材でパンパンになっていた。


それから暫くすると別働隊がやって来た。

別働隊も特に負傷はしていないようだ。


「さて、我妻達も来た事だしそろそろボス戦と行くか!」


我妻とは、別働隊を率いていた目付きの悪い男の事だ。

目が隠れそうな紺色のマッシュルームヘア、ヒョロリと細長い手足。


話した事すらないが響はなんだかこの男が苦手だった。

蛇のように獲物を見る目が品定めされているようで心地が悪い。

ふと、彼と視線が交差して響は急いでそっぽを向いた。


──あの人よりボス戦に集中しなきゃ! 荷物持ちとは言えタゲられると危ないし、ここで怪我なんてしたらまた病院に逆戻りだ。


武田を先頭に続々とボスのいるであろう空間へと向かう。

先程までの少し緩んだ空気はとは違い、少しばかり緊張が走る。


やがてひらけた空間にでると、Dランクダンジョンのボスの姿が見えてきた。


「あれがこのダンジョンのボス……」


自身の領域に侵入者がいると言うのにも関わらず、動く気配はない。

チロチロと舌を出し様子を伺っている。


全長は軽く20メートルを超えるであろう馬鹿げたサイズ。黒光りする鱗を纏い、狡猾さがにじみ出る金色の眼で獲物を睨む。

つまりは、大蛇だ。


「油断するなよ! コイツを倒せば終わり──何をしている我妻」


全員が武器を構え戦闘態勢にはいる中、我妻だけは違った。

あろう事か大蛇に背を向け、武田達に向け短剣を構え始めた。


「佐藤響君、こちらへ。僕は探索者組合執行部、我妻良樹。そして武田俊哉率いるこの攻略隊は、低ランク探索者をダンジョン内で殺害し保険金詐欺を繰り返しているゲスな輩だ」

「──は?」


響はこの我妻という男が何を言っているのかよく分からなかった。

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