第35話 洞窟の番人②


ダンジョンに入ってからフォレストウルフやトレントを倒した事により、多少のレベルは上がった。

しかしそれが決定的な違いを産むかと言われれば答えは否。


敵はCランク。ステータス値で言えばどれも響を凌駕している。

ミアの存在がせめてもの救いだが、それもどこまで通用するかわからない。


白光の切っ先を向け、ミノタウロスの一挙一動を注視する。

大地にめり込んだ斧を軽く引き抜き、背負う形に構える。


──来るッ!


大地を蹴りつけ先に動いたのはミノタウロスだ。

振りかざした大斧での横薙ぎ。

響はバックステップで回避するが、次弾の拳は既に眼前。


「くッ──重……ッ!!!!」


咄嗟に白光で受けたが、まるでトラックでも突っ込んできたのかと思うほどの凄まじい衝撃。

踏ん張りきれずに後方へと吹っ飛ばされ大木に衝突。


「がはッ……」


受身を取れずに衝突したせいで呼吸が上手くできない。

しかし、無情にもミノタウロスは追撃のため距離を詰める。


「させない……!」


魔法陣を展開し、ミノタウロスと響の間に巨大な氷壁を創り出す。

それと同時に氷壁のもう1つの魔法陣が展開される。


「グオオオオオ!」


突如出現した氷壁に苛立ち咆哮し、勢いを増した全体重を乗せたタックル。



バキッという音ともに亀裂が入り氷壁は砕け散るが──


「単純……だから、簡単……」


次の魔法陣からは大量の水が吐き出されミノタウロスの勢いを殺す。


──この隙は逃せない!


その隙に体勢を整えた響は跳躍し、白光にサンダーボルトを纏わせる。


「折れろぉぉぉッ!!」


ジャイアントキリング、弱点特攻そしてミノタウロスの弱点である角への剣撃。

水のせいでうまく身動きの取れないミノタウロスは、なすすべもなくそれを受ける。


バリバリと雷鳴を轟かせた白光の刃は捻れた角に根元に直撃し、軽快な音を響かせた。

ミアの魔法のおかげで雷は全身を駆け巡り、そのダメージを蓄積させていく。


「ォオオォォォォ──……」


呻きよろめきながら片膝を着いくミノタウロス。


「ミア! 一気に畳み掛けるぞッ」

「ん……ミア、頑張る……!」


ミアが両脚を凍りつかせ動きを封じる 。

暴れ狂うミノタウロスだが、太腿にまで達した氷を砕くのは容易ではない。


──もう一本へし折ってやる!


拳の嵐を掻い潜り残った角に照準を定める。

ほんの少しでも動きにミスがあれば、巨大な拳が響を捉えるだろう状況。


だが響は冷静だった。


──右! 下! 来た、大ぶりッ!


動きをよく見て最小限で躱し、それにいらついたのかミノタウロスは大振りの薙ぎ払い。


「ここだァッ!!」


跳躍してそれを回避すると、白光を力任せに叩き付けた。


「グモオオオオオオオ!」


衝撃に耐えきれず残りの角が折れると、悲痛な叫びを上げる。


──目目連の通りならこれで弱体化したはず!


そのまま顔面にしがみついた響はミノタウロスの額に手を当て──


「サンダーボルト!」


回避も防御も不可能。

弱体化に加え、弱点である魔法攻撃。さらに響にはジャイアントキリングと弱点特攻のバフがかかっている。

これ以上ない程のダメージは、ミノタウロスの息の根を止めるのには充分すぎるほどだった。


「ガ……グォォ……」


【レベルアップしました】

【レベルアップしました】


「よっしゃあああ! ミアやったな! 俺達2人だけでDランクダンジョンクリアだ!」

「ん……響、おめ……!」


駆け寄りハイタッチ。苦戦はしたが二人の連携の取れた動きによりなんとかボスを撃破した。

ミアの魔法も、響の剣もどちらか一方だけではこの結果にはならなかっただろう。


ミノタウロスの魔石と角をポーチにしまい、喜びを噛み締める。


「ミア、どうかしたか? もう戦わないぞ」


ふとミアを見ると今だ杖を握り、どこか警戒しているように見えた。


「……ゲート……出ない」

「え──?」


まさかと思い周囲を確認するが、ミアの言う通り出現するはずのゲートが見当たらない。

通常はボスを倒すとそこにゲートが現れ帰還が可能となる。

今のミノタウロスは間違いなくボスであり、確実に絶命している。


あれこれと考えるが答えが出ない。

沈黙が辺りを支配し始めた頃、ミアが呟いた。


「多分、連結……ダンジョン……」



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