71話 F級vsA級②


「なんだよこの馬鹿げた数は……サンダーボルトッ!!」


無数の炎による弾幕に雷撃を放つが、相殺出来るのは精々1つか2つ。

それでも響は迫る剛力と距離を取りながらサンダーボルトを連発していく。


だが、徐々に相殺が追いつかなくなり直撃はしていないが、炎槍が脇腹を掠め炎弾が足元で爆発し吹っ飛ばされる。


「ぐああッ」


これが属性魔法のスキルと、単体魔法のスキルの差だ。


スキルブックによりサンダーボルトを取得した響と、覚醒時に属性魔法を取得した剛力では根本から違う。

属性魔法ならこの弾幕のようにMPがある限りは発動できる。


しかし単体魔法ではそうもいかない。

勿論連射することは可能だが、同時何発も発動することは出来ない。


資質のあるものとそうでないものの差が如実に現れる瞬間でもある。


「避けるなよ雑魚がッ」


吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がる響に追い打ちをかけるように斬り掛かる。


「クッ……!」


真正面から斬りかかった剛力の刃を、なんとか白光で受け止める。


──重いッ!


だが、吹っ飛ばされて体勢の整っていない響は上手く力が入らない。

徐々に剛力の刃に押されている。


「あー……鬱陶しい! さっさと死ねよおらァ」


上下左右あらゆる方向からの剣戟。

なんとか凌いではいるが、防ぐので精一杯で反撃する余裕はなさそうだった。


剛力は力任せに刀を振っているように見えるがそうではない。


一刀一刀が着実に響を追い詰めている。

防ぎにくい角度で、反応を狂わす間隔で振っているのだ。


幾度かの剣戟の後、遂に剛力の刃が響の左肩を裂いた。


「ぐううぅぅ……!」


熱にも似た痛みが迸る。

肉が裂けた傷口からは血液がこぼれ腕を伝い、肘から地面に落下した。


「くはは、てめぇの癖は何となくわかってきたぜぇ? おら、次だ」


今の一撃で何かを掴んだのか、ニヤリと笑った。

次に繰り出された剣戟は弾こうとする響の刃に触れる直前、ほんの僅かに角度を変えた。


そして剛力の刃は響の胸に大きな太刀傷をつけた。

ドクドクと鼓動に合わせ流血していく。

決して深くはないが、それでも行動に制限をかけるには十分だった。


──耐えろ。もう少し。あとほんの少しでいい……!


響は気が遠くなる程の痛みをグッと堪え、剛力に手をかざし、


「サンダーボルトォッ!!」

「おっと、危ねぇなァ」


超近距離のサンダーボルトは剛力の軽いバックステップであっさりと避けられてしまった。

だがこれで距離ができた。


響は即座に立ち上がり白光を構える。


「はっ、A級でギルドマスターって割にはF級1人倒せないのか? 大した事ねぇんだな氷鬼ギルドってよ」


圧倒的不利な状況で響は笑い、未だ特にダメージのない剛力を挑発した。


「……くだらねぇ挑発だな。そんなに死にたいなら殺してやるが……後悔すんなよ? 何せ俺自身制御出来ねぇからな」


剛力は挑発と分かっていながらそれに乗った。

死にかけの響が今更どう足掻いたところで、結末は変わらないと判断したのか、それとも単に気に食わないのか。


とにもかくにも、剛力は確実に響を仕留めるために切り札を使うと宣言したのだ。


「──悪鬼羅刹」


そう呟くと、足元からどす黒いオーラが剛力を包んでいく。


──なんだ、これは……?


額からは漆黒の双角が伸び、皮膚は血を塗ったように赤く変化している。


「がッ……ぐ……」


身体は急激に肥大化し、まるで苦しんでいるかのように頭を抱える。


「……」


顔を上げ睨んだ目に白目はなく、真っ黒だった。

最早剛力と呼んでいいのかも怪しい所だ。


人ならざる容姿。これではまるで──


「化け物……じゃねぇか」

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