聖女救出
「まぁ、とりあえず方針は決まったことだし状況でも纏めるか」
それから少し時間が経ち。
アレン達は大声で叫んでしまったこともあって麓が覗ける場所を移動した。
「目下の最優先事項は聖女様の妹を救出すること。そんで、欲をかくならあの教会を潰して新しい教会を建てて神聖国のバックを得つつ自国の領土にすることだな」
「本当に欲張りさんですね」
「口で言うなら試食と同じでタダなんだぜセリアさん。最優先事項さえ履き違えなければお買い上げさせられることもない。こっちが教会をどうこうしたところで、聖女を助けるって大義名分があればのちの報復もないしな」
とはいえ、アレンとてそう上手くことが運べるとは思っていない。
何せ―――
「ただ、あの教会には間違いなく僕と同じ聖騎士がいます」
ソフィアの横で、同じ聖騎士であるザックが口にする。
当たり前だ、教会を建設するために聖女がいるのであればそれを守るための聖騎士も同じ場所にいる。
ザックがソフィアの横にいる理由と同じだ。
「そういや、神聖国には聖女って何人いるわけ?」
「私を含めて四人です!」
「おぉ、よく言えました」
「えへへっ……ハッ!」
子供扱いされたことに気づいたソフィアであった。
「四人いることは分かった……でも、話を聞く限りあの教会には聖女は一人しかいない」
何せ、教会を建築するために拉致されたのだ。
もし他に聖女を連れてこられたのであれば、そもそもソフィアの妹を拉致する必要はない。
「なぁ、わんちゃん聖騎士が味方についてくれるとかないかな? ほら、こっちは助ける側っていうかっこいいポジションで決めポーズしているわけだし」
「……すみません、英雄様。恐らく味方にはつけられないかと」
「どうしてですか?」
「恐らく、彼らは聖女様の妹君———ティナ様を人質として扱っています。その限り、主人に対するリスクを冒してまでこちらの味方につこうとは思わないでしょう。だから僕達もこうして内々で救出しようと考えたのですから」
確かに、アレン達の味方につけばティナを救う確率は上がるだろう。
しかし、それと同時に主人が拉致した側の人間に何をされるか分からなくなる。そんな危険を冒すぐらいであれば、確実に主人に危険が及ばない方を選択する。
それが聖騎士という役職であり、誰よりもまずは主人の生死を優先する人間達だ。
「セリア……俺は思ったよ。かっこよく助けると言った手前に言いたくはないんだが、不死身の兵隊蟻を倒すには美少女を殺さなくちゃいけないって構図がある以上、俺達圧倒的に不利じゃね? 俺達はその美少女を助けたいのに」
「今更ですか、ご主人様? 先程のお姿が綺麗に瓦解するのでかっこ悪くなるお口はチャックですよ」
と言ったものの、セリアとて主人の弱音は理解できる。
聖騎士は主人である聖女が死なない限り死ぬことが許されない。故に、聖騎士を倒して前に進むには聖女を殺す必要がある。
だが、殺す必要のある聖女はソフィアの妹で今回の救出対象だ。
となると、聖騎士は倒さず救わなければいけない―――あんなに強くて確実に立ちはだかってくる敵を。
「それに、一個疑問がある」
「なんでしょうか、アレン様?」
「神聖国のバックにはどの国がついている?」
アレンの言葉に、ソフィアは首を傾げる。
「だっておかしいだろ、いくら新しい鉱脈が貴重な資源になるって言っても神聖国から離れすぎている。こんなところに陣取ったって、近くの国がなけりゃ鉱山を栄えさせることなんてできない」
鉱山に建設するメリットはあくまでそこに人が集まるからだ。
しかし、神聖国が自力で栄えさせるには国から離れすぎている。今回アレン達が提案できたのも自国の領土から近くて容易に人を派遣できる空白地帯だったからこそ。
神聖国単体だけでは、いくら大国であっても栄えさせることは難しく、建てるメリットがない。
つまり、建てたのなら栄えさせられる国が一枚噛んでいるということになるのだ。
「……その反応を見る限り知らないって感じか」
「あぅ……申し訳ないです」
「気にするな、誰だって知らないことだってある。よーし、お兄さんが頭を撫でて元気づけてやろう」
「はいっ! えへへっ、アレン様の手が温かいで……ハッ!」
またしても子供扱いされたことに気がついたソフィアであった。
「ご主人様、真面目にやってください」
「おいおい、離したまえよレディー。悲鳴こそ上げちゃいねぇが、明らかに腕が背中経由の顔タッチなんて絵面が最悪じゃないか痛いから本当に離してお願いします」
さも自然な流れでアレンの近くに寄って撫でられているソフィアの姿を見て、セリアは素早く腕関節をキメる。
それに対し、アレンは一向に撫でる手を止めようとはしなかった。大した根性だ。
「いや、なんだかなぁ……もう俺達ってオープンで包み隠さずな関係になったじゃん? 言わば心の距離が近づいた感じなんだよ」
ため息を吐きながら離してもらった腕を擦りながら、アレンは気持ちよさそうな顔をしていたソフィアを見る。
「まぁ、言わんとしていることが分かりますが」
「そしたら、なんか聖女様が妹のように見えてきてな……」
「アリス様が泣きますよ?」
実の妹よりも甘やかそうとしているのだから、確かに泣いてしまうかもしれない。
「少しは真剣に考えましょう。バックがどこかによって対応が変わってくるのですから」
「いいよ、別に。どうせこの人数でババ抜きする確率よりも低くバックについている人間なんか割り出せるんだから」
「そうでしょうか? まぁ、妥当に考えるのであれば連邦、もしくは次に距離が近い帝国か魔法国家……ということになりますね」
「結局のところ、俺達があの鉱山を陥落させるには聖騎士を倒すだけダメだってことだ。さぁ、引いたババからどの国が出てくるかな? どこにしろ、簡単にあがらせてくれるわけじゃなさそうだけど」
帝国だろうが、連邦だろうが、魔法国家だろうが。
弱小国でありこの人数しかいない自分達にとっては辛い戦いになるだろう。
ババ抜きっていうよりかは貧乏くじだよな、と。アレンは肩を竦める。
「しかし、やはりこのタイミングとなれば相手は連邦だと考えて行動した方が―――」
その時だった。
ガサリ、と。アレン達の近くの草むらから人影が現れる。
アレンとセリアは立ち上がり、ザックは咄嗟にソフィアを庇う。
「これはすまない、別に驚かせるつもりではなかったのだが」
射抜くようなルビーの瞳に、端麗で美しすぎる顔立ち。
姿を現したのは、黒い軍服を着た黒髪を靡かせるそんな一人の女性。
それにともなって、連邦の軍服を着た人間が十人ほどあとから姿を見せる。
「連邦の黒軍服……ッ!?」
「おっと、そんなに警戒しないでくれたまえ。我々は別に戦争をしに来たわけじゃない。それはこの人数を見れば分かるだろう?」
そう言って、おどけてみせる女性。
だが、それがどうにも胡散臭い……アレン達の警戒は言葉一つでは緩むことはなかった。
「何しにきやがった? まさか、さっき遊んだ奴らの代わりに遊びに来たってわけじゃねぇだろうな?」
「言っただろう? もし遊ぶのなら、我々とてこの人数で押しかけるわけがないのだと。本当にチェスやポーカーでもするのであれば、この人数は少々多いぐらいだがね」
「だったら―――」
「提案を、しに来たのさ」
女性は胸に手を当てて、ペコリとアレン達に向かって頭を下げた。
「申し遅れた、王国の英雄並びに神聖国の聖女殿———私は連邦の統括理事局の第五席に名を連ねるライカ・キュースティーと申す者だ。先も言ったが、此度は王国側に提案をしに来た」
そして—――
「我々と共にドミノ倒しでもしないか? 連邦近くの空白地帯に余計なオブジェが建っているのは不快極まりない。要するに……邪魔だからあの教会を一緒にぶっ壊そう」
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