出発前

 さて、一週間ほどの時間が経ち。

 パーティーまであまり時間もないということもあり、早速アレン達はラザート連邦へ向かうこととなった。


 中身が飛びっきり嬉しくもない戦争プレゼントだったとしても、箱は親睦というなのお披露目パーティー。

 大仰な人数で行けば警戒されるし、変な誤解を与える可能性もある。

 そのため、人数は三十人ほど。王国に兵士長であるスミノフをお留守番させ、小規模な人数で赴くことになった。

 そして───


『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』』』』』


 王都から少し離れた場所。

 開けた荒野のど真ん中で、野郎共の野太い歓声が響き渡る。

 先日は綺麗な美少女美女の輝く瞳が見られたというのに、今度は敬愛すべき馬鹿共の瞳からお星様が見受けられる。

 というのも───


「ふふんっ! これが私の開発した……ってやつです!」


 車体は鉄でできているのだろうか? 全体は黒い塊に覆われていて、サイドには外の景色が見られるようガラスが貼られている。

 下にはゴムでできた球体のようなものが取り付けられており、全面は前方を照らすためのライトが取り付けられている。

 さらに、車内にはクッションでできた椅子が四つほど設置されており、馬車の中とは比べ物にならないほど快適そうな空間が広がっていた。


「中は空調完備! 夜間デートにもご安心の前後方のライト付き! 加えて、敵さんのスキンシップを受けても大丈夫なように対魔法の耐久性抜群! 時速はマックス百六十キロ! 私が一人で遠足に来れたのも、これのおかげってやつですよ!」

「す、すっげぇ! マジか! マジでかっこいいやつやん!」


 ドヤ顔で説明するシャルロットの横では、野郎共に交ざって自動車に瞳を輝かせるアレンの姿。

 その姿は、かっこいい動物に遭遇した思春期の子供のよう。

 どうして、連邦の発明品は童心を揺さぶってくるのだろうか? 男の子は大歓喜である。

 一方で───


「おにいさまが久しぶりに男の子してる」

「……私にはさっぱり」

「ふふっ、こういうお姿は可愛らしいなって微笑ましくなってしまいますね」


 かっこいいものは乙女的には刺さらかなったようで。

 逆に興奮する男子(※一名のみ)に微笑ましい視線を送っていた。


「ちなみに、ここを押すと収納部分が開いて」

『『『『『おぉ!!!!!』』』』』

「武器が取り出せます!」

『『『『『Oh…………』』』』』


 野郎的にやりたくもない戦争関連道具は童心を擽られなかったようだ。


「仕方ねぇでしょう? こちとら、か弱い乙女一人で他国にやって来てるんですから、お守りの一つや二つぐらい持ってきてもいでしょうに」


 そう言って、か弱い乙女は車の後ろのハッチからか弱くなさそうな巨大な筒を取り出した。

 厚みがあるというかなんというか。連邦と戦った時に何度か見かけた武器の一つが目の前に現れた。


「……これさ、確か引き金引いたら綺麗に焼かれたチキンが完成するやつじゃね?」

「試してみます?」

「朝食はチキンじゃなくて野菜主義ですぅー!」


 武器を持つと人は変わってしまうのだろうか?

 平然と傷つけようとしてくる女の子が怖くて仕方がなかった。


「まぁ、冗談は抜きにして……早速向かいますか」


 シャルロットは車内の運転席に乗り込み、ハンドルを握る。


「さっきの武器より、俺こっち試したいー」

「馬鹿言うんじゃねぇですよ。一応危ないんですから、安全面を考慮して自動車は十八歳になってからじゃないと運転できないんです! ついでに免許がないとダメなんです!」

「……お嬢さん、君いくつ?」

「十五歳です」

「チェンジ! 無免許運転発見チェンジを要求します!」

「開発者ぐらい例外の範疇に入れてくれたっていいでしょう!?」


 何故自分が開発したものなのに、横で文句を言われなければならないのか?

 窓の外で駄々をこねるアレンを見て、頬を引き攣らせた。


「……一応四人乗りですし、今回乗る人は美少女美女って制限しときますね」

「おいコラ、つまみ出したいならハッキリそう言っちゃいなよ! むさ苦しい野郎の空気なんて入れたくないならそう言いなよ涙流して恨めしそうな視線ずっと送ってやるから!」

『『『『『そうだ! そう、だ……ッ!!!!!(ぐすっ)』』』』』

「……そこまでして乗りたかったんですか」


 馬車は用意しているとはいえ、相手は連邦の技術の粋を詰め込んだ自動車。

 明らかに快適そうなのはどっちか? 男的に乗りたいのはどっちか!?

 もう、そんなの言われなくても分かる爪弾きにされた理由も分かる悲しいことにッッッ!!!


「……アレン」


 瞳からさめざめと涙を流しているアレンの下へ、ジュナがやって来る。

 慰めなんかいらねぇよ所詮恵まれた者には恵まれない人の気持ちなんて分からねぇんだぐすん。なんて拗ねたように唇を尖らせるアレン。

 しかし、ジュナはアレンに顔を近づけて───


「……よ?」

「「「なっ!?」」」


 アレンだけでなく、様子を見ていたアリスとセリアまでが驚きの声を上げる。


「ま、まさか男の願望がある意味二つも叶えられる方法があったとは……ッ!?」

「チッ! なるほど、それは盲点でした!」

「や、やるなぁ……ジュナさん。でも、膝の上は古今東西可愛い妹のポジションって相場が決まっているわけで!」


 やんややんや。

 衝撃の方法に盛り上がる四人。

 その様子を見て、車内に乗り込んでいるシャルロットは大きなため息をつくのであった。


「……もうなんでもいいですから、早く乗ってくれねぇですかね?」

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