何故かの戦争
今回の旅路に戦争はない。
あくまでパーティーに参加するだけで、特にどの国と偶然かち合ったとて「こんにちは」で済むはず。
まぁ、前提として向こうさんに戦争を仕掛ける理由がなければという前提にはなるが―――
『ヤバい、白衣の美少女っ子を守れ!』
『アリス様も連邦の美少女ちゃんもこれからグラマスなレディに育つんだ! 胸が控えめな間に殺されてたまるか!』
『未来ある女の子にかんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!』
やはり俺は戦争に好かれた男なんだ。
連邦と王国との空白地帯。広がる野原の真ん中で、アレンは膝を抱えてさめざめと泣き始めた。
「なんでだよぉ……なんでいつも行く場所行く場所で刺激ほしいお子さんが問答無用で遊び相手を探してんだよぉ」
「……よしよし」
目の前では、王国の少数の兵士達がせっせと剣を振っている。
対して、剣を向けている相手は帝国の甲冑を着ていた。時折後ろから指示を飛ばしている声が聞こえ、偶然出会ったから戦争……というわけでもなさそうだった。
だからこそ、余計に涙が誘われる。ジュナは、哀れなアレンの頭をそっと撫でる。
「……セリアは?」
「……今、自動車の中でアリス様とトランプしてる」
「呑気ここに極まれり」
「……仕方ない。アリス様には刺激的な光景。気を紛らわせつつ身を守るなら、むしろいい選択」
アリスは戦争に慣れていない。
見ること自体もないため、こうして目の前で誰かが倒れていく姿は刺激的すぎるだろう。
セリアがいれば、アリスの身は守れるはず。あとは、ことが済むまでアリスの心を如何にケアするかだ。
ジュナの発言にアレンは「……それもそうか」と、ゆっくりと立ち上がった。
「なら、さっさと可愛い妹の瞳に優しい景色にするため頑張るか! ファンシーなぬいぐるみを用意できないのは残念だがな!」
「……うん、頑張る」
「私も頑張りますよ」
と、やる気を出したその時。
横から巨大な筒を肩に担いだシャルロットが現れた。
「どったの? トランプに飽きた?」
「そもそもこんな状況で遊びに興じるほどメンタル乙女じゃないですよ。私のせいで迷惑かけているみたいですし、お手伝いぐらいはしねぇと」
はて、自分のせいで? アレンはシャルロットの発言に首を傾げる。
「どうせ、私が他国に足を運んだから好機と見たんでしょう。行きは爆速で飛ばして来ましたし、今ののんびり旅行なら手出しができるわけですし」
「えー、お前ってそんな爆弾抱えたお荷物さんだったの?」
「特に命を狙われる理由はねぇですが、常に私をほしがられる理由はありますからね。私一人がいれば、国の技術はうなぎ登りです」
統括理事局を技術で成り上がった天才児。
その少女の頭に詰め込まれた技術は、連邦が誇る技術の粋のほとんど、もしくはそれ以上だ。
それをほしいと思う国……というより、連中は後を絶たないだろう。
こうして戦争を吹っ掛け、拉致して自分のところへ連れて行こうとするぐらいには。
「まぁ、こんな無理矢理なアプローチなんてごめんですけどね。私は好きな人と好きなところで愛をはぐくみたい主義なんで!」
シャルロットが肩に担いでいた筒を構える。
「……それ、チキンを量産するやつじゃね?」
「ふふんっ! 見てのお楽しみ聞いてのお楽しみ♪」
指が掛かった引き金は、シャルロットが笑みを浮かべたのと同時に引かれる。
そして、激しい爆音が耳元で響き、そのまま戦場の中心に大きな爆発を生んだ―――味方を巻き込んで。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぃ!? おまっ、今がっつり女の子を守るために戦っている漢も一緒に巻き込まなかったか!? 耳に届く悲鳴の中にうちの連中いるだろ絶対!」
「あ、あっれー……おかしいですね。もう少し奥に向かって撃ったはずなんですけど」
「このあんぽんたんっ! ここにいる連中すべて君のために戦っていることを忘れるな! それなのに尻叩かれたらあまりにも可哀想だろ!?」
ごめんなさいごめんなさい、と。
シャルロットは黒い煙を上げる中心地に向かってぺこぺこと頭を下げた。
確かに凄い。たった一撃で戦場の中心地にどでかいクレーターを作り上げたのだから。
これが誰でも扱える武器なのであれば、そりゃ確かに色んな国もほしがるし、アレン自身もほしがっていただろう———味方が巻き込まれていなければ。
『ふぅ……今日も俺のジャンピング土下座が光ったぜ』
『最近、街で声をかけた女の子から殴られたんだが、それに比べたらマシだったな』
『この攻撃に耐えられた今の俺なら、あの子のスカートを覗いてもきっと生きていける!』
そんなアレン達の心配が向いていた巻き込まれたはずの王国の兵士達はゆっくりと立ち上がり、何故か爽快な笑顔を見せた。
「よかったな、うちの兵士達が逞しくて。犠牲者ゼロだ反省しろよ?」
「……なんか、申し訳なくなっていたさっきまでの気持ちが一瞬で失せたんですけど」
「……うん、やっぱり王国は面白い」
無事な王国の兵士達を見て、とりあえずアレンはシャルロットの背中を押して後ろへ下がらせる。
「まぁ、お嬢さんは下がっとけ。俺とジュナでなんとかするから」
「……任せなさい」
「は、はい……なんかお言葉に甘えた方がよさそうなので甘えときます」
いくら味方が逞しくても武器の乱発、よくない。
アレンは連邦の武器の性能を噛み締めながら、知らないものには手を借りないと決めたのであった。
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