見たい者と見られる者
先の戦いもまた無事に相手を退かせることができた。
怪我を負わせて帰らせても復活するゾンビができあがるだけなので、できるだけ捕虜を確保。
食糧問題が頭を悩ますところだが、徐々に優勢になってきているのは事実。
アレンとセリアが突貫して本陣を攻撃したいところだが、未だに聖女様がどこにいるのか分からない。
長引いている戦争に嫌気が差すが、それはそれ。
何せ───
「お風呂に入るのじゃ!」
「おー!!!」
『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』』』』』
目下、
「まったく、ご主人様は……」
「すげぇな、大将も。どこかしら遠足に出掛けたら一回は行うシチュエーションになりつつあるぞ、これ」
外野にいる頭を抱えたセリアとスミノフが、それぞれ頭のおかしいやる気に満ちた光景を見て反応を見せる。
日も暮れ、綺麗な夜空と松明の光に照らされた拠点では、敬愛する馬鹿共にエレミスが加わって何故か円陣を組んでいた。
「王国の英雄よ、準備はできておるのだろうな?」
「ふふふ……無論です王妃殿。我らが同胞の手にかかれば、
「ぬふふ……お主も中々悪よのぉ」
エレミス・レティア。
野郎共の覗かれ対象でいるにもかかわらず、完全に
恐るべきというかなんというか。己の身を削ってでも美少女の裸体が見たいという意欲は正しく戦場に突貫する兵士のようであった。
「……なぁ、堂々と聞こえてんだが、いいのか?」
「よろしくありません。私はご主人様一人にしか心を許した覚えはないですもん」
「そのセリフ、大将に直接聞かせてやればこっち側に来てくれると思うんだが」
となると、やることは一つ。
あの馬鹿共をどうやって黙らせるかだ。
「武力行使一択」
「……だよなぁ」
そしてここに、戦場でもないにもかかわらず大戦力が動き出す。
己の裸を守るために。そう、そもそもアレンと二人っきりでは抵抗はないが、流石に大勢に覗かれるのはメイドとしても恥ずかしいのだッッッ!!!
『な、なんだ!? 姫さんと兵士長が拳を鳴らしながらやって来るぞ!?』
『まさか、俺達の覗きを止めようと!?』
『だが、ここで引き下がるわけにはいかない……!』
二人に気づいた敬愛すべき馬鹿共が剣を抜き始める。
しょうもない理由で身内同士での争いが始まろうとしていた。
「……来るか、セリアよ」
加えて、またしても馬鹿一人がエレミスを引き連れて前へと出る。
「止めても無駄だ。正直に言おう……俺はどうしてもセリア達の裸を覗きたい!」
「いえ、時と場所と責任を考えてくださったら別に構わないのですが───」
「たとえ身内同士で争うことになろうとも、この想いだけは誰にも邪魔させないッッッ!!!」
無駄にかっこいいセリフの裏が下心でいっぱいなのは恐れ入る。
本当に場所と時と、見たあとの責任を考えてくれたら見せるのに、と。セリアは求められていることとそういったこともあって内心複雑であった。
「っていうか、王妃様はそっちでいいのか? 見られる側だぜ?」
「フッ……己の身可愛さで夢は叶えられんよ、若者よ」
だからどうして、こいつらは下心が無駄にかっこいいセリフで包まれるのだろうか?
『さぁ、やってやろうじゃねぇか!』
『大人しく負けて目の保養になりやがれ!』
『たとえ姫さん相手でも、負けるわけにはいかねぇんだ!』
戦争する時よりもやる気に満ちた雄叫び。
一応、この場にはレティア国の女性兵士の存在もいるのだが、どうやら馬鹿共は侮蔑しきった視線など気にしていないようだ。
「っていうか、なんで俺は姫さん側にしれっと参加させられる流れになってんだ……」
魔術師一人と兵士長一人。対して敵は戦闘の鬼神一人と王妃一人、王国兵三百人。
己の身を守ろうとする者と、
両者それぞれの想いを賭けた戦いが、今始ま───
『敵襲ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!!』
───ろうとしたその時、拠点にそんな声が響き渡る。
何事かと、皆の背筋が伸びた瞬間、頭上が真っ赤に煌めいた。
それは、巨大な火の玉。拠点全体を覆うほどの数で。
「ッ!?」
真っ先に動いたのはアレンであった。
頭上に雷で形成した球体を生み出し、頭上へ飛ばす。
火の玉が接近したタイミングで破裂させ、雷の波が拠点全体を覆った。
「なんじゃ、何故敵襲が!?」
「ここは見晴らしのいい場所だろ! 襲撃される前に接近に気づくはずじゃねぇのか!?」
アレンとエレミスの驚愕の声が耳に届く。
拠点にいる人間はすぐさま警戒態勢に入り、戦闘態勢に入るために散らばっていった。
「いや、それよりも───」
もう一度来る、火の玉が。
美しい夜空を覆い尽くし、容赦のない猛威が降り注ごうとした。
飛んでくる方向は、もちろん……神聖国側から。
「神聖国がこんな魔法使えるわけがねぇだろ! なんで魔法国家が神聖国についてんだ!?」
二者間で行われている戦争の拮抗。
そこに、第三者が介入する。
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