無駄な殺しはない方がいい
2巻発売決定!
5/25、第2巻オーバーラップ様より発売です✨✨
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『はっはっはー! 戦争はこうでなくちゃなァ!!!』
スミノフの声が何故か戦場で一際目立つ。
それは次々と巨大な剣で敵を薙ぎ倒しているからか、はたまた一人だけ戦争に楽しさを見出しているかは分からない。
とはいえ、スミノフ一人の活躍のおかげでアレン達も幾分か楽な戦いをしていた。
まぁ、王子が矢面に立たされて涙が出そうな戦争をさせられているのには変わりないが。
「……なぁ、今思ったんだけどさ。もしかしてどこの国にトンズラしても戦争ってあるもんなのかな? 隠居すれば平和な生活が送れるって夢はまやかし???」
「今更気づいたのですか? どこのお国もお手を取り合ってラブとピースを見せつけるだけ見せつけて、結局は利益にピースサインですよ」
がっくりとうな垂れるアレンの横で、セリアが手元に乗った霜に息を吹きかける。
すると、風に乗った霜が相手の体に付着し、綺麗なオブジェを作り上げた。
「お、おぅ……分かってはおったが、魔術師というのはこうも人外なのか。背中に抱き着かれたら流石の美少女でもゾッとするわい」
刀で次々と敵を葬っていくエレミスがそんなことを口にする。
「今後、私にナイフを持たせるようなことがないのを期待しますよ。それにしても、よろしいのですか? 王妃自ら戦場に赴いても?」
「高みに座ってチェスに興じるのは性に合わなくてのぉ。指揮者として、部下のモチベが上がるよう前に出る主義なんじゃ」
「……どこかの自堕落希望王子に聞かせてあげたいセリフですね」
「うちの馬鹿共は上に女の子が座ってるだけでモチベが上がるからいいの! なんだったら鞭で叩かれても必死に走るから!」
っていうか普通はお偉いさんが剣を握らんだろうに、と。
アレンは大きなため息をついて、生んだ雷を敵陣目掛けて投擲していく。
「しっかし、まぁ……今更思うが、あんなに優しい子がいるお国がこうして戦争しているって考えると、現実って儚いんだなって思い知らされるな」
「確かに、ソフィア様が嬉々として剣を掲げたら何故か涙を浮かべてしまいますね。お子さんの反抗期が悪化した時、母親はどのような感じなのでしょうか?」
「きっと同じように涙を浮かべるんじゃねぇかなぁ? だからきっと、スミノフのお母さんは今頃泣き疲れてるよ」
どうしても、アレン達の頭には『神聖国は優しい子ばかり』という印象がある。
もちろん、それは以前出会ったソフィアという女の子の影響が大きいだろう。
妹のために行動でき、嵌められたものの他者を重んじ、優しい子だと一発で分かってしまうような性格。
そんな子が所属している国で、その子が推している候補者と同じ派閥。
だからこそ、こうして戦争を起こしてこうして敵になっているのは幾分か悲しく思えてしまうのだ。
「っていうか、なんで後継者のために戦争するのかね? 向こうの聖女も悪いやつではなさそうなんだよなぁ……」
「なんじゃ、可愛い子じゃと聞いた傍から鼻の下を伸ばそうとしておるのか?」
「……ご主人様」
「違うって、単にジュナの態度的な話を総括してでだな!? だからそんな冷たい目をしないでご馳走様ですっ!」
ジュナの様子からするに、アイシャという聖女はそれほど嫌な人ではないと思っている。
もちろん、セリアとアレンのような仲とまではいかないが、少なくとも好意的ではあるのだろう。
そうでなければ、一度参加を表明した戦争を辞退するようなことなどしないはずだ。
少しの時間を経て分かったが、ジュナはあまり人に関心を抱かないタイプ。
何せ、己の国の人間ですら平気で牙を向いたのだから。
そんな彼女が庇うなんて、よっぽどよくしてもらったのだろう。
「まぁ、信徒であるという理由もあるのでしょうが……真面目な話、確かに悪いような人ではないように思えますね、個人的な偏見ですが」
「妾としては美少女に可愛い以外の
「テントで傷を癒している部下が聞いたら泣きそうなセリフだな」
「大丈夫じゃろ、こう見えてもうちの部下は別に殺しを好きだとは思わん。活かして終わらせられる事項があるのなら、それに越したことはないわい」
そのセリフはどこか納得できるもので。
不思議と共感できてしまったことで、内心アレンのエレミスに対する好感度が上がった。
「そっちの部下も恵まれてるな。うちの部下と同じだ」
「敬愛する馬鹿共は下心という名の正義ですけどね」
「待て、妾も下心じゃぞ!?」
「なんで今自ら評価を下げに来た!?」
セリアの冷たい目を向けられて、頬を赤くするエレミス。
せっかく上がった和服美女の好感度も、残念美人にクラスチェンジしそうであった。
「はぁ……とはいえ、どちらにせよこの戦争を早く終わらせることには変わりないがな」
「そうですね、早く終わらしてご主人様に存分となでなでしてもらわなければ」
「え、じゃあ俺は膝枕してほしい」
「ふふっ、承知しました」
何イチャイチャしてんじゃ、と。
ご褒美が他所に向かってしまったことで、一気に不満気になったエレミス。
すると―――
「……ん?」
―――エレミスの手が止まり、何故か端の景色に視線を向けた。
「どうした、王妃殿?」
「……いや、なに。ちと不思議に思ってのぉ」
固まるエレミスの視線の先。
そこはようやく見えた草原の終わりを象徴する木々が小さく映る。
「妾ら、いつの間にこんな場所まで来たんじゃ?」
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