レティア国の王妃
今回の戦争の勝利条件は神聖国の軍を率いている聖女による降伏だ。
本当は首を討ちとって……という勝利条件もあるのだが、アレンとしてはこの路線はなくしたい。
何せ、ジュナの知り合いなのだ。
元よりあまり殺傷を好まないアレンの性格だったり、事情を説明して「ばっかもんっ! 可愛い
故に、当面は『無駄な殺傷をせず、戦力を削って聖女であるアイシャの戦意を削ぐ』のが目的となる。
そのためには、もちろん相手の戦力を削って白旗を上げさせる必要があるのだが―――
「減らねぇ、敵がッッッ!!!」
青空の下、味方と敵の雄叫びが広がる戦場のど真ん中で、アレンの叫びが響き渡る。
戦場は場所を移して、拠点としているところから3kmほど離れた場所。
正面から
角度を変え、アプローチを変え、人数を変え……そして、場所も変わる。
場所を移動したおかげか、視界の先には草原一辺倒だった景色に木々が映り込んでいた。
とはいえ、戦場全体に若干霧がかかっていて見えづらいが。
「なに!? 敵さんは多少カラスにやられても気にしませんっていう案山子ばかりなのか!? いいじゃん、労れよ自分の体!」
「当たり前ですよ、ご主人様」
アレンが近くにいた兵士の頭を地面に叩きつけていると、ふと霧の中からメイドの少女が姿を現す。
「此度の戦争では神聖国の象徴である聖女様が控えております。普段であれば使い物にならなくなる負傷兵も回復して戦いますから」
「ちくしょう……美少女ナースにナニの元気をもらったからって働かんでもいいだろ。好感度を稼いでも得られるのは野郎の剣だけじゃん!?」
「向こうとしても、それだけの大義があるのでしょう。でなければ、戦争非積極的な神聖国が躍起になるとは思いません」
「そりゃそうだ、なんせ神聖国はあの可愛いダイアモンドが象徴なんだからなっ!」
霧の中に稲妻が走り始める。
セリアは小さく溜め息をつくと、一歩だけ下がった。
『来るぞ、英雄の魔術だ!』
『退避! できるだけ距離を取れ!』
『魔術師相手に俺達で戦おうとするな!』
霧に包まれている中からそんな声が聞こえてくる。
しかし、それでもアレンは言葉を紡ぐ。
逃げようが関係なく―――英雄の魔術は声に向かって牙を向いた。
「
頭上に向いていた雷は収束を始める。
一本の柱から曲がり、集い、形を成して……ついに、青白く発行する球体へと変わった。
アレンはそっと指を向けると、球体は地面を抉りながら確実に神聖国の兵士を飲み込んでいく。
巻き込まれた兵士は押し潰されることはなく、ただただ口から煙を吐き出して倒れていった。
「ご主人様、殺さなくてもよろしいのでしょうか?」
「どういう大義かは知らんが、こいつらだって帰る家はあるだろ。手を抜いて戦争を長引かせたくはないが、摘まなくてもいい命までを摘もうとは思わん!」
「ふふっ、お優しいですね。特等席で観ていた私は思わず主演の活躍に惚れてしまいそうです♪」
セリアの可愛らしい笑顔が似つかわしくない戦場に生まれる。
その時、背後から神聖国の兵士が現れ、セリア目掛けて剣を振るった。
『獲った、魔術師ッ!』
しかし―――
「馬鹿め、レディーには優しくするもんじゃろうが」
―――割り込んできたエレミスの刀が、兵士の剣を斬った。
『んなッ!?』
「驚くことじゃなかろうて」
兵士は真っ二つになった剣を見て情けない声を上げてしまう。
エレミスはそのまま男の懐へ潜り込み、的確に顎を打ち抜いていく。
神聖国の兵士はそのまま白目を剥いて倒れ、和服美女は小さく鼻を鳴らした。
「今時他人の剣を斬るなんて珍しくもないわい」
そうは言いながらも、後ろにいる王国の人間は―――
「(な、なぁ……刀ってあんなに切れ味よかったっけ? それとも和服クオリティがあったからこそできた芸当?)」
「(さ、流石に和服クオリティで斬れるようなものではないと思うのですが……だとしたら、今頃島国国産の兵器で溢れていますよ、戦場が)」
魔法を使えば斬れないこともない。
いや、正確に言うと砕くような形しかできないだろう。アレンであれば雷によって発生した熱で溶かすことはできる。セリアであれば極限まで剣を冷却して砕く。
だが、これは違う。
明らかに物によって斬られたような滑らかな断面。
……訂正しよう。
実際に刀で斬ってしまったのを目撃してしまっているのだ。ような、ではなくそう、である。
「(レティア国ってぶっちゃけあんま印象なかったんだけどさ……もしかして、王妃様って実は学園の催しで踊ったら各種方面から声がかかるほどダンスが上手かったりする?)」
「(わ、私にはなんとも。それに、そもそもあの身のこなしの時点で箱入り娘を卒業できるかと思います……)」
アレンもセリアも分かっている。
間近で見たからこそ理解したというべきか……この芸当は、決して刀のせいではなく本人の技量によるもの。
エレミス・レティア。
ただの女好きかと思えば―――
「さっすがは王国の英雄じゃの! 先程見たが、変わらず凄い魔術じゃ!」
「あ、あはははははは……」
―――スミノフ以上の、実力者なのかもしれない。
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