鉱山奪還戦、開幕
さぁ、シートでも敷いて自然の景色を堪能しよう!
弁当を広げて、楽しい会話に華を咲かせながら目の前に広がる光景を眺めるんだ。
生い茂った草木、囀りをやめて飛んでいく小鳥達、何やら一気に騒がしくなった鉱山、そして—――黒い狼煙を上げながら瓦解していく教会。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!? あんた開始間際の一幕で何やっちゃってんの!? あそこには最近できた妹の妹がいるんだよ分かってんのかてめぇゴラァ!!!」
「ティ、ティナ様が……ッ!?」
「ど、どどどどどどどどどどうしましょうザック!? ティナがいるのに、教会が崩れていっちゃってますよ!?」
さて、楽しい楽しいピクニックもお開きにして。
とりあえず騒がしくなった鉱山に負けず劣らず騒がしくなってしまったアレン達。
その元凶である連邦の第五席様は荒ぶる王国の英雄を宥め始めた。
「まぁ、落ち着け王国の英雄。ピクニックが小さなハプニングで邪魔されたからと言って、子供みたいに喚くんじゃない。少しは私の部下を見習ったらどうだ?」
「いきなりプロローグにエンドロールぶち込まれて喚かずにいられるかっ! これじゃあ悲劇のヒロインを救出してハッピーエンドってストーリーが視聴する前に大ブーイングだろうがッッッ!!!」
あの教会にはソフィアの妹がいる。
どういった原理で教会が崩壊してしまったのかは分からないが、あれに巻き込まれてしまえばひとたまりもないはずだ。
アレンだけでなく、ソフィアやザックの顔が一気に青白くなる。
「建物が崩壊したぐらいでは存外、人間とは死なない生き物だ。それに、そもそも聖女とは聖騎士に守られる存在なのだろう? あれしきであれば白馬の王子様が迎えに来てくれているはずさ。それより、連邦の兵器を見せてやったんだから少しは褒めてくれ、ちょっと期待していたんだ」
褒める以前の問題だろうがと、アレンは歯軋りをするが、小さくため息を吐いて気持ちを落ち着かせる。
「……やってしまったものは今更文句言っても仕方ない。んで、これからどうする? 今ので怒った蟻さんが巣から出てくるぞ?」
「せっかく密偵に爆弾を仕掛けさせたのに淡白な反応で涙だよ。これでも我々の兵器には自信はあったんだがね―――まぁ、ここからは正面突破でストーリーを盛り上げていこうじゃないか。具体的には、総力戦で突撃だ。英雄殿は前に出ていつものように拳を握ってくれたまえ」
「てめぇ、これが終わったら泣いて謝るまで尻を撫で回してやるからな……ッ!」
アレンがそんな愚痴を吐きながらも、草むらから飛び出して鉱山へと向かって行く。
それに合わせて、セリアを始めとした王国兵が一斉に後ろを追っていった。
―――鉱山周辺の地形は、存外分かりやすいものだ。
開拓される前ということもあり、炭坑も綺麗に整備された道もない。教会を建てたのもつい最近のこと故に、それほど周辺の木々が開拓されていることもない。
つまりは、単なる山だ。強いていうなら、少し見晴らしがいいというぐらいだろう。
「しかし、どうして連邦はいきなり教会を壊したのでしょうか?」
アレンの横に並ぶように走るセリアが疑問を口にする。
「大方、連邦ご自慢の最新兵器で「いきなり奇襲!」ってことを避けるために中にいる人間を炙り出したんだろうよ! おかげで蟻さんの巣は大パニック……ぞろぞろと兵士が敵さん求めてお出迎えだ!」
山の上からは続々と兵士が姿を現している。
白い甲冑に赤のライン、教会が建っていることもあって姿を見せてくるのは神聖国の兵士達だ。
「ザック! あいつら同郷の人間だろ! 言っておくが、ここで俺らを同情に巻き込もうなんて考えるなよ!」
「分かっています! 最優先はティナ様なので!」
相手はソフィアやザックと同じ神聖国の人間。
ここで同郷の人間に対する同情心をアレン達に向けようものなら、たちまち手が鈍ってしまうのはこちらだ。
同じ国の人間を殺すことになっても文句は言うな。戦場では少しの気の揺れが市に直結するのだから。
「案外と敵が多いな……これは二千の連邦軍だけで突貫しなくてよかったよ」
「ごめんね、その二千を倒しちゃって! あとで謝罪するから、今はセリアと一緒に後ろで聖女様を守ってくんねぇかな!? 女の子の物見遊山に付き合ってられるほど暇じゃないんで!」
アレンの言葉を受けて、先にライカではなくセリアが後ろから一生懸命ついてくるソフィアの下に向かった。
タイミングがよかったのか―――その瞬間、上から来る神聖国兵とアレン達王国兵が合流する。
「さぁ、てめぇら! 美少女を助けるヒーローになりたきゃ死ぬ気で生き残れッ! 拉致監禁のサディストに女の子に対する接し方を教えてやろうじゃねぇかッッッ!!!」
『『『『『しゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』』』』』
王国兵の激しい怒号が響き渡る。
それだけではない、金属音や土が零れる音、何か破裂するようなみずみずしい音も合わせて戦場と化した鉱山に混ざった。
これが戦争、たった一人の少女を助けることから始まった行動の、成れの果てだ。
「聖女様、怖ければ目を逸らしてもいいですよ? ザック様の代わりに私がお守りしますので」
セリアがソフィアの正面に立ちながら口にする。
しかし、ソフィアはその言葉に甘える様子もなく血が飛び交う戦場を見ていた。
「いえ、ちゃんと見ます。怖いですけど……私が始めたことですから」
「……失礼いたしました。では、覚悟を決めた妹のためにも、私も全力でお守りしましょう」
セリアの姿が薄れ始める。
『霞』担当の魔術師が、己の魔術を広げた結果だ。
そして、今度は頭上から巨大な火の玉が飛んできた。
『『『『『
何人が生み出せば空を覆うような大きさになるのか?
アレンはそんな火の玉へ、手から生み出した雷の槍を投擲していく。
「さぁさぁ、引いたババがようやくお目見えになったぞ!」
他国の少女を助けることから始まった鉱山奪還戦。
そのお相手は―――
「神聖国のバックは魔法国家だッ!!!」
神聖国と魔法国家。
かの四つの大国の二つ。
今ここに、四つ巴の戦争が幕を上げる―――
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