再び、鉱山へ

 さて、ここに王国と連邦が手を組むという珍しい協力関係が生まれたのだが、ここで一つ問題があった。


『おいっ、ここは戦場なのにどうしてオアシスのような空気が!?』

『大将について行くと美少女が拝めるって最近になって学べたぜ……』

『まだ夜まで長い、だと……ッ!? 美女と美少女の湯浴みセットはいつになったら拝めるんだ!』


 美女が加わったことにより、王国兵の頭が一段と悪くなったのである。

 まぁ、元より馬鹿の集まりだ。頭が悪いのは今更の話。


「それと、王国兵はいつもこんな頭の愉快な空気なのか? 劇団のサーカスでもこのような阿呆は拝めないぞ」

「やばい、うちの醜態が隠し切れないところにまでっ!」

「戦場が一気に動物園にでもなったような気分ですね」


 アレン達は、そんな阿呆共を引き連れながら再び鉱山へと向かっていた。

 千もの人数を隠す気はなく、それぞれが草木を踏みしめながら進んでいる。

 その時、ふと気になったライカが横を歩くアレンに尋ねた。


「それと、さしてツッコむ気にはならなかったが、聞いておいた方があとあとの問答が減るしな、今のうちにしておこう」

「ん? どうした夜のスケジュールならいつでも空いているぞ?」

「それはことが済んだあとに自分の財布を見直してから発言してくれ。それより―――」


 そして、視線をアレンの少し後ろへ向けた。


「後ろの聖女はコアラか?」

「コアラじゃないですよ!?」

「ばっか違うわい! どこからどう見ても子コアラだろう!?」

「コアラの赤ちゃんでもないですよ!?」


 さも自然に背負われているソフィアが顔を真っ赤にして否定する。

 その姿が大変愛くるしい。


「いいか、聖女様は今や戦場に置かれてるマスコットだ。この子がむさ苦しい男達に囲まれて歩け歩け大会なんかできるわけないだろ? これは適切な扱い方だ」

「ならば、そこの聖騎士に背負わせればいいのではないか? 傍から見ていると、疲れた妹を仕方なく背負って帰る兄の構図にしか見えん」

「んな馬鹿な───ほら、疲れただろ。飴ちゃんをやるからもうちょっと我慢な」

「わ、私の扱いが固定化されてきているような気がします……」


 いただきます、と。アレンからもらった飴をちゃんと受け取るソフィア。

 確かにこの構図だけを見ると仲睦まじい兄妹のようにしか見えない。


「そういえば、連邦の兵士はどこにいるんっすか? 結局そのまま鉱山に向かってますけど、いいんですかね?」

「いい質問だ、神聖国の聖騎士。どこかの誰かさんが突然遊び相手に誘ってきたせいで数は減ってしまったが、他の人間はしっかりと別行動で仕事をさせているよ。協力関係にある以上、我々も拍手を送りながら傍観に徹するわけにはいかないからね」


 まぁ、当初よりも人数が減ってしまったわけだが、と。

 ライカがニコリとした笑みをアレンに向ける。もちろん、アレンは全力で目線を逸らして知らぬ存ぜぬだ。証拠はあるけどまだセーフ。


「して、ご主人様。何も決めずこうして鉱山へと向かっておりますが、何か考えはあるのでしょうか?」


 横を歩くセリアがソフィアに飴をあげながら尋ねる。

 なんだかんだ言いながらも、ソフィアが可愛くて仕方ないみたいだ。


「特に考えはねぇな。とりあえず鉱山に向かって鼻の下伸ばしてる馬鹿共と仲良く突貫って感じかな?」

「……そのような考えなしでいいのですか?」

「まぁ、本当はよくねぇんだろうが。どこから攻めた方がいいのか、いつ攻めるのか。俺達は教会を潰す前に聖女様の妹を助けて鉱山をババから占拠しなきゃいけない。だけど―――」


 アレンは横にいるライカをチラリと見た。


「どうやら、連邦が舞台を整えてくれるらしいからな。俺らは無駄な頭を使わずにエキストラに徹すればいい」

「連邦がぁ?」

「こら、セレスティン伯爵家の神童。そんな疑わしい以外の言葉が見つからない目で見るな。君の中で連邦の信頼がないのは分かるが、もう少しオブラートという言葉を学びたまえ」


 敵国故に理解はできるのだが、あくまで現在は協力関係。

 円満にことを進めていこうという気概を持ってほしいものであった。


「まぁ、期待されてはいないが任せてくれ。提案を持ち掛けた以上、言い出しっぺの責任ぐらいはしっかり果たすさ」


 そう言って、ライカは持ち前の潤んだ唇を歪めてみせる。

 それでも、セリアは明らかな敵対心をありありと顔に浮かべていた。


「こらこら、そんな顔をするんじゃありません。聖女様が怖がっちゃうでしょ」

「セリア様、笑顔ですっ! 笑っている方が、幸せがやってきますよ!」

「チッ」

「ダメです、アレン様。セリア様がずっと怒ってます……っ」

「こんなキューティクルな笑顔を向けられてもメディアでお見せできない顔になるとは……ご近所の美女さんとこの子の間に一体何が……?」

「特段私は何もしていないのだかね。今度、連邦の特産品でも持参してご機嫌取りにでも挑戦してみよう」


 あーだこーだ。

 たわいもない会話をしながらも、着実と鉱山へ向かっていくアレン達。

 そして、いよいよ鉱山の近くまで辿り着くことができた。


「……それで、辿り着いたのはいいが、このまま突貫しろとは言わないよな?」

「まぁ、落ち着け。少しスパイスを足さなければ料理だって美味しくはならないだろう?」


 さて、連邦は一体どういう準備をしていたのか?

 アレンだけでなく、セリアもソフィアもザックも、他の王国兵も気になってライカの方に視線を向けた。

 そんな期待を一身に浴びるライカは、徐に懐から小さなボタンを取り出した。


「それは……?」

「あぁ、これはちょっとしただよ」


 そう言って、ライカはさも平然とそのボタンを押す。

 すると―――


 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォッッッン!!!!!


 ……と、鉱山の方から激しい衝撃音が聞こえてきた。

 ふと音の聞えた方に視線を向けると、黒い煙を吐きながらが視界に映った。


「さぁ、これであとは掃除をするだけというわけだ」

「何しちゃってんのお前ッッッ!!!???」


 清々しくも自慢げに口にするライカを見て、アレンは思わず叫んでしまった。

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