現れたのは

「……貴様、昨日アイシャ様のお花摘みに同行したらしいじゃないか」

「待て、今そんな話する!?」

「何故私を起こしてくれなかった!?」

「怒るポイントそこ!?」


 暗いの怖いという可愛らしい属性を見せつけてきた翌日。

 行軍の最中に魔法士と遭遇。さて、今日も今日とて戦争だ。

 ちなみに、お昼を食べ終わってからの時間ではあるが、この時点で今日三回目の戦争だ。


「アイシャ様がちょっと茂みが揺れた程度で可愛らしい声を上げ、しがみつくあの瞬間こそが生きる意味だというのに……ッ!」

「……そういうのを分かってるから、アイシャも気を使ったんじゃねぇかなぁ? 自分の身に」


 悔しさを当てつけのように大槌で表現するクラリス。

 魔法士達のど真ん中で繰り広げられる構図は、流石聖騎士のトップとも言うべきか……酷かった。

 こう、転がっているテニスボールをラケットで気ままに打っていくような。

 おかげで、テニスボールな魔法士達は先程から何度も彼方へ飛んでいってしまっている。


(なんで俺はどこのポジションに立ってもお守りの役目をさせられるんだ……そっち側のプレイも一回ぐらいは味わってみたいよ)


 アレンが近くにいた魔法士のローブを掴み、そのまま詠唱を始めようとした魔法士に投げつけた。

 あとは指先から放った雷撃で意識を刈り取れば、一気に二人の無力化完了である。


「にしても、戦争戦争って……多くねぇか? これじゃあ、そろそろ亀が兎を追い越すぞ?」


 ここは空白地帯。

 戦争の準備などしていなければ、こんなに敵と遭遇するはずもない。

 戦いの最中に考え事など、本来はダメなのだが───


(まるで、……ッ!)


 アレンの頭上に炎の雨が降り注ぐ。

 敵味方諸共の魔法行使。

 この場にはアレンやクラリスだけではない……活路を開き、近接戦まで持ち込んだ味方がいる。

 アレンや聖騎士であれば問題ないかもしれないが、このままでは負傷兵の製造は避けられない。


「セリア!」

「承知しました」


 一帯を覆っていた霧が頭上へ掻き集められる。


氷固サーブル


 その霧は一瞬で固形へと変わり、雨を一身に浴びていく。

 炎の代わりに氷の雨が降り注ぐが、服が燃えないだけでも高評価と言えるだろう。


「ナイスアシスト!」

「あとでなでなでを要求します」


 アレンがどこにいるかも分からないセリアへ親指を立てる。

 しかし、その直後。アレンの真横から杖が向けられた。


「望むは火炎の恩恵───」

「ちくしょう、あーもう面倒くせぇ!」


 詠唱を始めようとした魔法士の杖を蹴り飛ばし、胸倉を掴み上げる。


「褒めさせてもくれねぇのか!? 飴と鞭の割合を考えなきゃ部下が次々辞めていくんだぞ、この職場はッ!」


 クラリスと同様、八つ当たりとでも言うべきか?

 アレンは憤りをそのままに彼方へ敵を投げ飛ばした。

 こんなにも飛ばせんだ、へー。と、己でも驚いてしまうほどに。


「なっ!? そっちは───」


 魔法士が何かを言ったが、聞こえない。

 何せ、宙へ放られたはずの魔法士の体がのだから。


「「「「「……………………」」」」」

『『『『『……………………』』』』』


 敵味方、関係なく。

 戦場に酷い沈黙が広がった。

 そして───


「見つけたぞ、超難問の間違い探しの答えッッッ!!!」

『『『『しゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』』』』


『違う景色を《オーロラ》』は立体ではなく平面。

 映像であったとしても、平面さえ越えてしまえば奥には違う景色が広がっている。

 つまりは、越えた者の映像は即座に認知ができない。

 見間違いか? そう思ったが、周囲で戦っていたはずの魔法士達が一斉に焦り始め方向転換をしたのが証拠となった。


『ま、守れ! ここから先には行かせるな!』

『肉に盾でもいい! 魔法国家に己を捧げろ!』

『全ては魔法の発展のために!』


 まさか、こんなに近くまで来ていたなんて。

 不可解な点はある。なのに、こうして戦争を起こしてしまっていること。

 何故、わざわざ間違い探しのヒントを与えるかのように現れた?

 だが、今はそんなことはどうでもいい───


「一問目は解いた! つづいて第二問目……姫様ヒロインを見つけ出したやつが白馬の王子様だ!」

『『『『『やってやろうじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』』』』』


 王国兵も、神聖国の兵士も止まらない。

 スミノフが我先にへと突貫し、クラリスもまた神聖国の兵士と聖騎士を連れて進む。

 アレンは、そんな乱戦を極めた中をすり抜け、一度も早退することなく消えたポイントへと足を進めた。


「っつしゃ! 一番乗り!」


 ポイントに踏み入れた瞬間、景色が変わる。

 そして、アレンは息を呑んだ。


「んなッ!?」


 眼前に広がる施設のような建造物に? いいや。

 先程まで快晴だった空が雨でも降りそうな雲に覆われていたから? 違う。


「な、なんで……」


 アレンが驚いたのは、そこじゃない。

 何せ───


「なんでてめぇらがそこにいる!?」


 ───千の兵士を率いた、和服美女の姿があったからだ。


「さぷらーいず♪ どうじゃ、久しぶりに会った美女との対面のご感想は?」

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